第70回 大学・大学入試情報コラム

メディアの大学入試情報に注意しよう。

2024年2月
教育ジャーナリスト 小林哲夫

 毎年1~3月、入学試験シーズンになると週刊誌から取材を受ける。今年、「週刊現代」記者から連絡があり、昨今の大学難易度について話を聞かれた。
 できあがった記事を見て、かなりのあやうさを覚えた。定量的なデータを示さず、匿名証言による感覚的な物言いで、ある特定の大学を断じていたからだ。
 やがて、記事はこの週刊誌と同じ系列のネットニュースで公開された。そのタイトル、見出しを見て仰天した。
「上智の転落ぶりがヤバすぎる…もはや「早慶上智」とは言えない深刻な理由」(「現代ビジネス」2024年2月22日)。

 上智大職員から連絡があって、えらい剣幕で怒っていた。わたしが取材協力して談話を寄せたこともあって、腹立たしさをぶつけてきたらしい。
 怒るのは無理もない。「転落ぶり」の根拠、様子が少しも明示されていないからだ。

 大学に詳しい専門家の話がこう紹介されている。
「ほかの私大で国際系の学部が次々と新設され、国際色が売りだった上智の独自性が失われています。もはや早慶との間には大きな差が生まれていて、マーチにも追いつかれつつある。このままでは『JMARCH』になる日も遠くないでしょう」
「特に『wakatte.tv』というYouYubeチャンネルの影響は大きい。チャンネル登録者は約50万人で、情報感度が高い上位層の受験生はほぼ全員が知っています。一般入試を重視する彼らは、推薦入試の定員が多い上智に対してかなり批判的なため、それを見た受験生が敬遠していてもおかしくありません」。

 この2つの談話は間違っていない。
 まず、「国際系の学部が次々と新設」とは早稲田大国際教養学部、法政大グローバル教養学部、明治大国際日本学部、青山学院大地球社会共生学部、中央大国際情報学部グローバルなどを指している。関西では関西学院大国際学部、関西大外国語学部、同志社大グローバルコミュニケーション学部、立命館大グローバル教養学部があげられる。秋田の国際教養大、大分の立命館アジア太平洋大なども強力なライバルだ。長年、国際色でリードしていた上智大にすれば、得意分野が得意ではなくなってしまう。実際、上智大よりもこれらの大学を選んだ高校生はいる。関西在住者からいえば、上智大に進むより自宅から通える関関同立を選ぶ、といっても不思議ではない。

 上智大のブランド力低下、というより、競合学部が増えた。経済的な理由で地元の国際系学部を選んだ、とみるほうが合理的である。上智大の教育方針がいまと合わなくなったとか、校風が高校生に受け入れられなくなったとか、大学が不祥事を起こしたとか、という理由ではない。
 そもそも上智大の難易度はそれほど下がっていない。昭和の時代のような、「早慶上智」という括りに厳しくなってきたかもしれないが、上智ファンはまだまだいる。たとえを出して申し訳ないが、難関だった女子大が人気低迷で難易度が下がった、という事態は、上智大では起こっていない。

 もう1つ。
「推薦入試の定員が多い上智に対してかなり批判的」というのも間違ってはいない。その結果、受験生が上智大を「敬遠」することも十分予想される。しかし、そこから「転落」という結論を導き出せる材料はまったくといっていいほどない。
 なぜ、敬遠するのか。一般選抜の枠が狭くなって難易度が高まり合格しにくくなるからだ。ただし、敬遠するのは合格のボーダーライン上の受験生であって、模試で合格率80%以上あるいはA判定という受験生までごっそり敬遠するわけではない。

 各予備校も難易度ランキングを見ると、1990年代まで上智大の各学部は早慶と並ぶことがあった。なかでも外国語学部は早慶の文学部系より偏差値が上位だった。
 2020年代、上智大の難易度はそこまで高くない。しかし、早慶の次という位置は変わっていない。
 これらを考えると、上智大の難易度はやや低くなるかもしれないが。「早慶上智」の首都圏私立最難関枠は保たれており、「転落」という状況は起こっていない。これは大学、高校、予備校関係者に聞けば、すぐわかることである。

 しかし、ネット記事は恐ろしい。中身も理解されず、どんどん1人歩きしてしまう。受験生、保護者が「転落ぶりがヤバすぎる」を信じてしまう。それが風評として大学にダメージを与えてしまう。こちらのほうが、よほど「ヤバすぎる」話だ。

 メディア、なかでも週刊誌の大学入試情報は売らんがために、実態とかけ離れたタイトル、見出しを付けることがある。結果的にあおりとなってしまう。
 過去のあおり記事を見てみよう。
◆「日東駒専は偏差値で旧帝大、北大・東北大・九大に並んだ」(「週刊現代」1990年3月10日号)。
◆「早慶上智は値崩れするぞ」(「サンデー毎日」1994年4月17日号)。
◆「文科省委員会が調査して分かった日本のアホバカ大学250」(「フライデー」2015年3月27日号)。
◆「本当にあった「バカ田大学」」(「週刊ポスト」2011年10月17日号)。
◆「入ると“損”する「私立大学」ランキング…コスパ最悪だった「意外な名門大学」の実名」(「週刊現代」2023年1月26日号)。
◆「このままでは、関関同立が「近関同立」になる…いま関西の名門大学で起きている「異常事態」」(「現代ビジネス」2024年2月22日号)

 早慶上智は値崩れ、バカ田大学、コスパ最悪、近関同立・・・。
 どれもこれも根拠がない。匿名コメントの感覚的な物言いで構成された、典型的なあおり記事である。

 メディアで大学入試情報を伝える記者、編集者には猛省を促したい。もう、あおるのはやめてほしい。
 そして、大学入試情報の受け手である受験生、保護者、高校教員は、このようなタイトル、見出しを信用してはいけないことを訴えたい。
 大学入試情報を読み解くリテラシーも必要となる。そんな時代になっていることに、大学入試情報を発信する立場のわたしは残念でならない。

教育ジャーナリスト 小林哲夫:1960年神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト、編集者。朝日新聞出版「大学ランキング」編集者(1994年~)、通信社出版局の契約社員を経て、1985年からフリーランスの記者、編集者。著書に『女子学生はどう闘ってきたのか』(サイゾー2020年)・『学校制服とは何か』(朝日新聞出版2020年)・『大学とオリンピック』(中央公論新社2020年)・『最新学校マップ』(河出書房新社2013年)・『高校紛争1969-1970 「闘争」の証言と歴史』(中公新書2012年)・『東大合格高校盛衰史』(光文社新書2009年)・『飛び入学』(日本経済新聞出版1999年)など。

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