第27回 大学・大学入試情報コラム

大学スポーツは東高西低、一極集中を解消すべき

2021年11月
教育ジャーナリスト 小林哲夫

 2021年正月、大学ラグビー選手権大会で天理大は優勝した。
 関西勢の全国制覇は36年ぶりである。それまで大学ラグビーといえば、関東勢が圧倒していた。帝京大、早稲田大、明治大、慶應義塾大、すこし古くは関東学院大、大東文化大などが大学日本一の称号を手にしていた。
 大学ラグビーは長きにわたって東高西低だった。
関西勢の優勝校は1980年代前半の同志社大だけである。決勝戦にも2010年代になって天理大がようやくたどり着き、関西強豪校は日本一を狙えなかった。
 天理大の全国制覇は、大学ラグビーが関東だけの「特許」でないことが証明され、関西の大学の学生、指導者、ファンたちはおおいに盛り上がった。天理大のライバル、同志社大、大阪体育大、京都産業大、近畿大からは、大きな励みになり、自信につながったという話を聞いた。

 高校はどうだろうか。
 ラグビー強豪チームは高校まで西高東低である。
関西では東海大仰星、大阪桐蔭、京都成章、天理、御所実業、報徳学園など、九州では東福岡、佐賀工業などが、花園で優勝を目指している。なかでも福岡は公立進学校が強い。修猷館、福岡、東筑、筑紫丘などが県予選ベスト4に勝ち進むことが多く、優れた選手を送り出した。福岡高校出身の福岡堅樹さんがラグビー日本代表として活躍したのは記憶に新しい。いま、順天堂大医学部に通っている。
 関東では桐蔭学園の強さが突出しており、国学院久我山、流通経済大柏なども、花園で上位常連となっている。だが、最近、関西ほど優れたラガーマンを送り出していない。
 西日本の高校が強いのは、東京や神奈川よりも京都、大阪、奈良、和歌山、兵庫、福岡のほうが、少年ラグビーチームの活動が盛んだからだ。ラグビーのエリート教育は断然、西のほうが熱心に行われている。

 それなのに大学ラグビーは東高西低である。
 なぜなのか。
 花園で活躍した西日本の優れた高校ラガーマンが大挙して関東の大学に進むからである。帝京大、早稲田大、明治大のレギュラーには東海大仰星、大阪桐蔭、京都成章、天理、報徳学園、東福岡など花園優勝、準優勝、ベスト4メンバーがズラリと並ぶ。それゆえ、同級生対決、同窓の先輩後輩対決がよく見られる。ノーサイド直後、相手チーム選手との談笑は、少年クラブチームからよく知っているゆえの、友だち感が漂う。
 早明は伝統校ゆえに高校生を魅了する。帝京大は大学日本一9連覇を果たし日本代表にもっとも多くの逸材を輩出する強さに高校生は憧れるからだ。昨今、無冠ながら東海大、筑波大、日本体育大、流通経済大、法政大、日本大、大東文化大などのレギュラーには、関西や九州の花園常連校出身が多いのは、東京の強豪校で力を試したい、という思いが強いからだろう。

 それゆえ、ラグビーの名選手たちは関東集中型になってしまったが、それでいいのだろうか。
 わたしは日本のスポーツが強くなるためには、特定の大学に優れたアスリートが集まるより、優れたアスリートがさまざまな大学で活躍して切磋琢磨したほうが効果的ではないか、と考えている。
 強豪校内での競争は熾烈を極める。ラグビー人気校の早稲田大、明治大、帝京大にアスリートが集まりすぎて、せっかくの「ダイヤの原石」が試合に出られず埋もれてしまい、陽の目を見ない可能性がある。もったいないではないか。
 天理大の日本一は、大学スポーツの関東集中型から少しでも全国分散型に変わるのではないかと、期待を持たせてくれた。だが、現実には関東のほうが地力に勝る。今年は早稲田大、明治大、帝京大がやたら強い。大学選手権大会で関西勢がなんとか上位進出を果たしてほしい。そして、「東海・北陸・四国・中国地区」代表(2021年は朝日大・岐阜)、「北海道・東北地区」代表(同、八戸学院大・青森)、「九州学生リーグ1位」代表(同、福岡工業大・福岡)は、ひと泡吹かせてほしい。

 とはいってもラグビーの場合、個人の体力、体重、スキル、経験値の差がかなりものをいうスポーツである。地方大学は関東や関西の強豪校と対戦して、100点差をつけられることはめずらしくない。また、地方大学は近場に強豪チームとの対戦がなかなか恵まれず、切磋琢磨できないというハンディはある。でも、不可能ではないはずだ。いまの帝京大、かつての大東文化大、関東学院大は新興勢力として伝統に打ち勝ってきた。八戸学院大、朝日大が正月、決勝の舞台に登場することを期待したい。

 それに比べると、野球は意外に関東集中型ではない。全国分散型だ。
 全日本大学野球選手権大会では、2003年に日本文理大(大分)が優勝、2009年に富士大(岩手)が準優勝、2013年には上武大(群馬)が優勝した。
2016年の決勝カードは中京学院大(岐阜)対中央学院大(千葉)だった。2018年の決勝では国際武道大(千葉)と東北福祉大(宮城)が戦っている。そして、2021年に福井工業大(福井)が準優勝だった。
 東京6大学リーグのの早慶明法立、東都大学リーグの東洋大と駒澤大と亜細亜大、首都大学リーグの東海大はたしかに強い。そしてレギュラーは甲子園出場校メンバーで固められている。早稲田大と立教大いずれも野球部主将は大阪桐蔭高校出身で同級生だ。それでも全国の大学が強いのは、ラグビーよりも競技者人口が多く、各大学が力を入れやすいからだろう。また、野球はラグビーほど体力、体重、スキル、経験値が求められていないからかもしれない。
 2019年のラグビーワールドカップ日本代表に、9連覇中の帝京大出身が7人で群を抜いた。以下、東海大3人、拓殖大2人だった。関西勢は関西学院大、京都産業大、天理大、花園大が1人ずつだった。

 2021年の東京オリンピックの野球代表24人のうち、大学出身は12人だった。ここで興味深いのは12人全員が異なる大学であることだ。
 菊池涼介(広島)は中京学院大、柳田悠岐(福岡ダイエー)は広島経済大、大野雄大(中日)は佛教大、伊藤大海(日本ハム)は苫小牧駒澤大(2021年、北洋大に改称)である。
 強引にこじつければ、全国分散型の野球が世界一となり、関東集中型のラグビーが世界ベスト8ということになったのだろか。

 さて、東高西低の最たる競技が駅伝である。
 「箱根駅伝を全国大会化できないものか。これでは関西の陸上界は地盤沈下してしまう」。
 かつて立命館大学陸上競技部の元指導者がこんな話をしてくれた。
 関西の高校生が5000メートル走上位100人はみんな関東の大学に進んでしまう。「箱根で走りませんか」という勧誘に、高校生アスリートはすっかりまいってしまうからだ。
 箱根駅伝は関東学生陸上競技連盟(関東学生陸連)が主催する一地方大会である。しかし、歴史が古い、正月に行われる、海沿い走り山登りをするなどコースがバラエティに富む、全国放映される、などの理由から、長距離走に自信がある高校生にとっては憧れの舞台となる。
 そして、大学にとっては最高のコンテンツである。正月早々、大学名が映し出され、連呼されるのは喜ばしい。学生、保護者、教職員、OBOGは盛り上がることで、帰属意識がやたら高まるからだ。

 箱根駅伝は、ラグビー以上に志願者が増え、難易度が上がる。そんなふうに言われるが、これもデータとして裏付けられるものはない。青山学院大が初優勝した年、志願者を増やしている。だが、これによって駅伝との因果関係を語るのはいかがなものか。短絡的すぎるだろう。この年、文系学部全学年を相模原(神奈川県)から青山に移転したことで、千葉、埼玉からの志願者が増えている。キャンパス移転による通学の利便性が図られた、というほうが、駅伝初優勝よりもはるかに合理性がある。
 これは駅伝強豪校の山梨学院大、大東文化大にも同じことが言える。残念ながら駅伝優勝は志願者にはつながっていない
 それでも大学にすれば、日本一はありがたい話だ。全国的に知名度が高まった。スポーツが強いという意味ではブランド力を持つことができたのである。その効果は大きい。
 山梨大学の教授はいまだに出張先で「駅伝が強いですね」「オツオリはすごかった」と言われてしまう。山梨の大学といえば、駅伝を思い浮かぶ人が全国にいるのは、大学名を間違えても山梨学院大にとっては嬉しいことなのである。

 箱根駅伝という大学名拡散コンテンツを、全国の大学はうらやましくて仕方がない。全国大会化、せめて地方大学枠設置を望む声は後を絶たない。青山学院大陸上競技部の原監督も全国大会化によるレベル向上を提唱するが、主催者は聞き入れようとしない。あくまでも関東のローカル大会に徹するつもりだ。

 大学スポーツの中心は関東、という発想はやめたほうがいい。
 全国各地で「ダイヤの原石」が磨かれることで、才能をどんどん発掘する。そのために大学は全国あちこちでスポーツの舞台を設定する。才能を埋もれさせないために。
 スポーツにおける関東の大学への一極集中を改善してほしい。
 地方の大学が日本一になる。それは地域再生にもつながる。これは教育、研究でもおなじことが言えるだろう。
 東京大は論文数がもっとも多く、研究費も国や企業からたくさんもらっている。それに惹かれて日本中からもっと優秀な高校生が集まっている。
 2021年東京オリンピックの日本代表の出身校でもっとも多かったのが日本体育大だ。あらゆる種目で日本中からトップクラスのアスリートが入学する。
 全国に東京大、日本体育大がたくさん作られればいい。
大学でのすぐれた人材の育成は特定大学集中型よりも、全国大学分散化のほうがいい、とわたしは考える。
そのために、まずは東高西低を崩してほしい。

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