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勉強嫌いの高校生が文武両道礼賛報道にもの申す

学歴マニアと称される方々がいる。
彼らは進学校にまつわる情報をSNSで発信している。
たとえば、全国都道府県の伝統的な進学校について、現在および過去の東京大、京都大など難関大学合格者数、あるいはインターハイの成績などを調べあげて分析するなどだ。
7月11日、高校野球東東京大会予選で開成高校と都立日比谷高校の対戦があった。
試合が行われた神宮球場第二球場には両校の生徒や卒業生などがたくさんかけつけたが、学歴マニアの姿も見られ、彼らはその様子をSNSでしっかり実況していた。
一方、球場にはメディア関係者は多く集まった。試合の様子をその日(7月11日)のうちにネットで配信された。
「進学校対決は日比谷に軍配 開成・中野主将「東大で会うのが楽しみ」」(朝日新聞)
「開成、日比谷が初戦で対決…今年の東大合格者は計265人」(サンケイスポーツ)
「偏差値70超え進学校対決 日比谷がシーソーゲーム制して開成に1点差勝利」(デイリースポーツ)
「日比谷が開成に逆転勝ち 全国トップの進学校対決制す 1点差の劇的幕切れ」(日刊スポーツ)
「超進学校対決は日比谷が開成に勝利…青賢太朗主将が逆転2点二塁打 開成は9回に1点差まで迫るも及ばず・・・東東京大会」(スポーツ報知)
メディアは文武両道が大好きである。
たとえばこんな感じだ。いずれも7月9日の配信記事である。
「「県千葉のドクターK」加賀谷一「アドレナリンが出て」圧巻の奪三振ショー/千葉」(日刊スポーツ)
「医学部目指す「ドクターK」 県立千葉高3年の加賀谷一投手、初回から奪三振ショー」(サンケイスポーツ)
頭が良くて勉強ができる。野球もものすごくうまい。
メディアからすれば「すごい、すごい」と礼賛したくなってしまう。
だが、このようなスーパーマンは少数派だ。甲子園出場のレベルになるとほぼ野球漬けの毎日であり、勉強どころではない。また、勉強がたいそう苦手な野球部員も少なくないだろう。
わたしは私立男子高校出身である。偏差値は低く勉強が苦手、大嫌いな生徒が多かった。
しかし野球部は強く、甲子園出場経験がある。野球に自信がある子どもたちが集まった、「野球学校」だ。
わたしは野球部員と仲が良かった。彼らとよくこんな話をした。試合で絶対に負けてはいけない学校である。こんな感じだ。
①男女共学:女子の声援を受ける相手に激しく嫉妬する
②進学校:勉強が嫌いだから野球しているのに勉強できるヤツに負けたら、おれらには何も残らない。
③公立高校:公立高校に行きたかったが中学校の内申書で入学できなかった部員がいる。それゆえ、コンプレックスを持つ者が多かった。また、朝日新 聞、NHKの報道では公立をひいきする。それも腹立たしかった。
④長髪選手がいる:全員坊主である。長髪が認められた他校部員を見ると「チャラチャラしやがって」と思ってしまう。
⑤誰でも試合に出られる部員少数校:「野球学校」なので部員は50人以上いる。ベンチ入りするだけでも大変だ。自分よりもうまくないのにレギュラー選手になれる。くやしい。
⑥旧制中からの伝統校:旧制一中、二中などの伝統校は卒業生が多い。当時は野球部も強かった。それゆえ、観客席は「野球学校」に比べると、OBOGが半端なく多い。
⑦グラウンド共有で練習短時間校:夜8時9時までの練習はしょっちゅうやっており、専用グラウンド状態だった。部活のグラウンド共有校に負けるわけにはいかない。
⑧試合中に笑顔が絶えない:どこが楽しいのか。はっきり言って苦行である。練習、試合中、こんな苦しいことはない。
⑨まじめでさわやか:野球してなかったらただの不良だっただろうな。
⑩先輩後輩の関係がゆるい:3年生は絶対だ。1年は先輩にでかい声で挨拶するのはあたりまえ
⑪部員の出身中学は地元だけ:野球留学のどこが悪い。灘や開成にも全国から天才、秀才が集まっている。
⑫不祥事と縁がない:他校とのケンカをもみ消すのは大変なんだ。
⑬女子マネージャーがいる:許せない。「タッチ」など高校野球マンガの読みすぎじゃないのか。
1970年代後半、いまから半世紀以上前の話である。
ねたみ、ひがみ、コンプレックスのオンパレードなのでお許し願いたい。
2020年代のいま、少子化で横浜高校、早稲田実業学校のような野球強豪校の多くは共学化になった。長髪が認められ、先輩後輩の厳しい関係はなくなった。
しかし、勉強が嫌いな高校生、勉強ができない高校生はもちろん、いまでもいる。勉強がダメだからスポーツに力を入れる。将来はスポーツで身を立てよう。そんな高校生にとって、文武両道礼賛報道は、どうしても引いてしまう。「武一道でなにが悪い」と。
勉強ができる。進学校に通っている。
立派である。だからといって、メデイアがそれを文武両道と過剰にほめたたえるのはどうかと思う。「東大で会うのが楽しみ」という高校生はかっこいい。ぜひ、東京大野球部で再会して東京大を優勝に導いてほしいが、それを記事の見出しに掲げるのはいやらしさを感じてしまう。
勉強ができない、進学校に通っていない高校生だって、野球で好成績をあげればとても立派なことだ。
勉強ができなかったかつての高校生として、昨今の文武両道礼賛報道にはもの申しておきたかった。
教育ジャーナリスト 小林哲夫:1960年神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト、編集者。朝日新聞出版「大学ランキング」編集者(1994年~)、通信社出版局の契約社員を経て、1985年からフリーランスの記者、編集者。著書に『女子学生はどう闘ってきたのか』(サイゾー2020年)・『学校制服とは何か』(朝日新聞出版2020年)・『大学とオリンピック』(中央公論新社2020年)・『最新学校マップ』(河出書房新社2013年)・『高校紛争1969-1970 「闘争」の証言と歴史』(中公新書2012年)・『東大合格高校盛衰史』(光文社新書2009年)・『飛び入学』(日本経済新聞出版1999年)・『予備校盛衰史』(NHK出版2026年)など。
