大学・大学入試情報
入試と選挙が重なった――候補者の大音量アナウンスに大学はどう対応したか

今年2月 衆議院議員選挙が行われた。国政選挙が2月に行われるのは1990年以来、36年ぶりのことである。受験生にとってはありがたい話ではない。問題を解いているとき、選挙カーから連呼される候補者の名前は耳障りであり集中力を切らしてしまう恐れがある。もちろん、大学も受験生には最高の環境で入試に挑んでもらいたい。
選挙期間中、大学はどのような対応をしただろうか。大学がウェブサイトで告知したケースをいくつかしよう(カッコ内は大学がウェブサイトで告知を配信した日)。
騒音を防ぐために耳栓の使用を認めた大学がいくつかあった。
◆東京経済大
「本学入学試験実施中に試験場周辺での演説、選挙カーからのアナウンスが流れる等の影響が考えられます。これらは生活騒音であり、試験実施上の苦情受付、救済措置等は行いません。ただし、選挙活動等の影響を鑑み、今年度に限り入学試験実施中の耳せん使用を以下の注意事項を条件に認めます」。
同大学では「注意事項」について次のように説明している。
「通信機能、ノイズキャンセリング機能を持つもの、またはその判別が難しいものの使用は認めません。これらの機能のある耳せんを使用した場合は不正行為となることがあります。
イヤーマフ等のヘッドホン形状の騒音防止具の使用は認めません。
試験中に耳せんの機能について、監督者が確認することがあります。
試験開始の指示があるまでは使用しないでください。
試験開始の指示の後、耳せんを使用しても構いませんが、試験終了時などの指示は口頭で行います。
試験終了後は、すみやかに耳せんを外してください。監督者の指示が聞こえず、解答を続けた場合は不正行為となります。
試験中に問題訂正がある際は板書と口頭で周知します。問題訂正の指示が聞こえず、訂正前の内容で解答した場合でも救済措置はありません。
その他、耳せん使用中の受験者に対する特別な指示や対応は行いません。
※「2026年度入学試験要項」P.20における、耳せんは使用できない旨の記載については、今年度に限り上記条件で認めることとします」(2026年1月23日)
すこし解説しよう。
ポイントは2つある。
まずはカンニング防止だ。
2011年、京都大入試で予備校生が問題の一部を質問サイト「ヤフー知恵袋」に投稿した。携帯電話を股の間に挟んで試験監督からは見えない状態で打ち込んだのである。すぐに第三者から回答が寄せられ、受験生はそれを書き写して提出した。このカンニングはまもなく発覚する。
京都大は「厳正かつ公正であるべき、わが国の入試制度の根幹を揺るがす重大事件」という声明を発表し、京都府警に「公正な試験を妨害された」とする被害届を出した。その後、予備校生は偽計業務妨害で逮捕されている。
この事件から15年経った。IT技術は格段と進歩し、ネット環境は整備され、耳栓であっても外部とのやりとりは十分に可能である。カンニングで起こっても不思議ではない。大学は耳栓に高度な通信機能が付けられていることを恐れた。「ヘッドホン形状の騒音防止具」を認めないのは、どのような機能が仕組まれているか、大学にとっては不気味だったからだろう。
もう1つは、耳栓をしたことによって、「試験中に問題訂正がある際は板書と口頭で周知します。問題訂正の指示が聞こえ」ない状況が生まれかねないことだ。耳栓をした受験生が「聞こえなかった」と申し出ても、大学は救済を断っている。
東京経済大とほぼ同じ対応をした大学がいくつかある。
◆東京農業大
「衆議院議員選挙の実施に伴い、本学の入学試験実施中、試験場周辺において選挙活動(演説、選挙カーからのアナウンス等)が行われる可能性があります。これらは生活騒音に該当するため、救済措置はありません。ただし、解答への影響に鑑み、以下のとおり耳栓の使用を認めます」(1月30日)。
◆東京工科大学
「2月7日(土)のA日程実施にあたり、近隣での選挙演説等による騒音対策として、希望者には解答時間中の「耳せん」の使用を許可します」(2026年1月30日)。
◆大谷大学
「入学試験実施においては、上記の音声等は『生活騒音(日常生活において通常起こりうる騒音等)』として取り扱うため、特別な対応は行いません。ただし、受験生への影響を鑑み、一般入試[第1期](チャレンジ受験を含む)に限り「希望者には試験時間中の耳せん使用を特別に許可」しますので、以下の注意事項を遵守してください。【耳せんは、各自で準備してください】」(1月30日)。
◆広島工業大
本学では、2026年2月1日(日)、2月2日(月)、2月3日(火)の3日間で、一般選「本学および学外試験会場周辺で街頭演説や選挙カーからのアナウンスが流れる可能性があります。これにつきましては、生活騒音として取扱い、特別な対応は行いません。ただし、特別に耳栓の使用を許可する場合がありますので、必要に応じて各自で準備してください」(1月30日)。
一方、耳栓使用をいっさい認めない大学がある。選挙運動のアナウンスは、たとえば日常生活で聞こえてくる飛行機や鉄道、道路工事、動物の鳴き声などから出てくる音=「生活騒音」と位置づけており特別な対応はしない、という考え方だ。
いくつか紹介しよう。
◆同志社大
「2026年度一般選抜入学試験要項 P.37「入学試験実施に際しての対応について」 にて事前にお知らせしているとおり、選挙等のアナウンスは生活騒音として取り扱い、特別な対応は行いません」(1月29日)。
同志社大は「生活騒音」を次のように説明する。
「①生活騒音(日常生活において通常起こりうる騒音等)に対して、特別な対応はしません。
《生活騒音の例》
・風音、雨音、雷鳴
・航空機、自動車、バイク、鉄道の騒音
・通過する緊急車両のサイレン
・工事の音
・廃品回収や物売りの類、およびイベント・選挙等のアナウンス
・動物の鳴き声
・空調や照明等、試験会場となる施設が通常発する音
・他の受験生の発する音(咳、くしゃみ、ためいき、はなをすする音、筆記具を使用する際の音等)」。
なるほど、「イベント・選挙等のアナウンス」が生活騒音として扱われている。同志社大と同じ対応をしている大学を紹介しよう。
◆東北学院大
「試験会場周辺で選挙カーや街宣アナウンスなど選挙活動による音声の影響が予想されます。入学試験実施において、上記の音声等は「生活騒音(日常生活において通常起こりうる騒音等)」として取り扱うため特別な対応は行いません」(1月30日)。
◆東海大学
「試験会場周辺は選挙カーによるアナウンスや街頭演説等が行われる可能性があります。これらに伴う音声等につきましては「生活騒音」として取り扱い、試験実施上の苦情受付や救済措置等は行いません。あらかじめご了承くださいますようお願いいたします。また、入学試験要項に記載のとおり、耳栓の使用は認められませんので、併せてご承知くださいますようお願いいたします」(1月30日)。
◆東京女子大学 入学課
「衆議院議員選挙の実施に伴い、本学の入学試験実施中(2月3日・4日)、試験場周辺において選挙活動(演説、選挙カーからのアナウンス等)が行われる可能性があります。入学試験実施において、これらの音声は、生活騒音に該当するため、救済措置はありません(1月30日)。
◆東京理科大
「試験実施中に、試験会場周辺で選挙カーからのアナウンスが流れるなどの影響が想定されますが、これらの音声等については「2026年度一般選抜要項」に従い「生活騒音」として取り扱います。また、同要項に従い、耳栓の使用は認められませんので、あらかじめご承知おきください」(1月29日)。
◆麻布大
この期間は、衆議院議員総選挙の選挙運動期間と重なるため、試験会場周辺は選挙カーによるアナウンスや街頭演説等が行われる可能性があります。これらに伴う音声等につきましては「生活騒音」として取り扱い、耳栓の使用許可や救済措置等の特別な対応は行いませんので、あらかじめご了承ください」(2月2日)。
◆神奈川大
「本学では、これらに伴う音声等は「生活騒音(日常生活において通常起こりうる騒音)」として取り扱い、試験時間の延長など特別な措置は実施しません。また、監督者の指示が聞こえない可能性があるため、「耳栓」の使用は認められませんので、あらかじめご了承くださいますようお願い申し上げます」(2月2日)。
◆駒澤大
「本学における試験実施においては、これらに伴う音声等は「生活騒音(日常生活において通常起こりうる騒音)」として取り扱い、試験時間の延長など特別な措置は行いません」(1月29日)。
◆阪南大学
「試験時間中に試験会場周辺で街宣アナウンス等の音声の影響が予想されます。試験実施において、上記音声等については、「令和8(2026)年度入学試験要項」に記載のとおり『生活騒音等』として取り扱い、耳栓の使用許可や救済措置等の特別な対応は行いません」(1月29日)。
◆関西学院大
「試験の実施において、上記の音声等については、「2026年度一般選抜入学試験要項」に従い、イベント等のアナウンスによる『生活騒音(日常生活において通常起こりうる騒音等)』として取り扱い、特別な対応はいたしません。また、同要項に従い、耳栓の使用も認めません」(1月26日)
◆福岡大学
「2月8日投開票の衆議院議員選挙に伴う街宣や演説等が試験時間中に聞こえた場合でも生活騒音として扱い、試験時間の延長や耳栓の使用など特別な措置は行いません。あらかじめご承知おきください」(1月30日)。
耳栓の使用を認めない理由として、試験会場の公平性をあげた大学があった。
◆大東文化大
「試験中、周囲の環境等による日常的な生活騒音(自動車の音、周囲の環境音等)が生じる場合がありますが、これらは入試要項に記載の通り特別な対応の対象とはなりませんので、ご了承ください。また、試験中の耳栓の使用は認めておりません。これは、板橋キャンパスや地方会場での受験者へ公平・公正な試験を実施するための対応であり、例外的な取扱いは行いません」(1月31日)。
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選挙運動の大音量アナウンスは生活騒音だろうか。候補者名の連呼ほど耳障りなものはない。まして、大学近く大きな声で演説を始められたら、耳栓をしたところで静寂さを保つことはできないだろう。リスニング試験の最中に選挙カーがやってきてキャンパス周辺の静寂が破られれば、受験生の力を試すまっとうな選考はできないはずだ。生活騒音と決めつけるのは、受験生にとって酷ではないだろうか。
大学は入試期間中、キャンパスで運動部の試合を行ったりしない。学生に静けさを求める。生活騒音の定義をどうか見直して、「選挙運動」を外してほしい。
大学は選挙期間中の入試において受験生に何らかの配慮をすべきだと、わたしは考える。
耳栓使用でもいい。試験時間の延長でもいい。試験会場は複数ゆえ公平性が保たれないという意見はもっともである。だが、選挙アナウンスが響きわたった会場、静かな会場に分かれてしまうのも、公平性に欠けることにならないか。
どんな受験生でも入試にのぞむにあたって緊張する。不安、あせりを抱く者もいるだろう。大学はもう少し受験生に寄り添ってほしい。大学が受験生に配慮する。これは学生を大切にすることにつながる。大学を評価するにあたって、こんな視点があってもいいのではないか。
教育ジャーナリスト 小林哲夫:1960年神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト、編集者。朝日新聞出版「大学ランキング」編集者(1994年~)、通信社出版局の契約社員を経て、1985年からフリーランスの記者、編集者。著書に『女子学生はどう闘ってきたのか』(サイゾー2020年)・『学校制服とは何か』(朝日新聞出版2020年)・『大学とオリンピック』(中央公論新社2020年)・『最新学校マップ』(河出書房新社2013年)・『高校紛争1969-1970 「闘争」の証言と歴史』(中公新書2012年)・『東大合格高校盛衰史』(光文社新書2009年)・『飛び入学』(日本経済新聞出版1999年)・『予備校盛衰史』(NHK出版2026年)など。
