第48回 大学・大学入試情報コラム

「Fランク大学」という呼び方はやめよう。

2023年1月
教育ジャーナリスト 小林哲夫

 今年5月、新卒向け就活情報サイトの記事「【行く意味ある?】Fランク大学一覧」が大炎上した。記事にはFランクの定義が縷々綴られており、Fランクとしていくつかの大学があげられている。名指しされた大学からすれば、愉快な内容ではない。
 こんな記述がある。
「Fランク大学に行くメリット:大卒という資格が手に入る、大卒しか入れない企業に入れる可能性がある、努力次第では良い企業に就職できる、4年間遊ぶことができる、大学期間中にさまざまなことにチャレンジできる
  Fランク大学に行くデメリット:頭が悪い人が多い。授業が中学生レベル、就職で苦労する、学費が高い、大学名を言うのが恥ずかしくなる」

 差別と偏見の上に立った言いたい放題であり、読んでいてとても悲しくなる。
 この文章を書いた人は、当事者がどのように受けとめるか。すこしでも想像したことがあるだろうか。残念でならない。

 そもそもFランク大学はいつ、だれが作ったのだろうか。
 きっかけは「週刊朝日」(2000年6月23日号)である。同誌にこんなリードの記事が出ている。
「受ければ受かる「Fランク」私大194校も 全実名 河合塾が格付けしたら、全国4割の大学が該当」
 2000年、河合塾は入試資料としての難易度表に「Fランク」を付けたのが始まりだった。それをメディアが伝えて広がった―――これがFランク誕生の背景である。20年以上前の話である。
 同誌によれば、Fはフリーパスの頭文字からとった。Fの認定基準は、➀実質倍率が2倍以下、②すべての偏差値帯で合格率が65%以上、③合格者の下限偏差値が35以下、の3つがすべて揃っていることである。

 同誌にFランクと名指しされた学長のコメントが掲載されている。
「本学は少人数教育を伝統としており、入学後の教育により、有為な人材として社会に送り出す努力をしているのでそうした点を総合的に見てほしい」
「偏差値に頼る教育の弊害は明らかであり、本学はそれよりも品性や感性の豊かな学生を求めている。学力だけでなく、本学にふさわしい人間性により選抜している。良家の子女とはそんな女子なのである。二学科がFランクなのは、本学の本質にかかわりがない。一教育産業の偏差値が話題になることに首をかしげる」(2000年6月23日号)。
 大学も学長名も実名である。さぞ、悔しかっただろう。

 予備校は大学入試に備えるための教育機関である。
 受験のプロフェッショナルが、受験生を志望大学に合格させるため必要な知識や技術を伝授」する場だ。教養を教えるところもある。受験テクニックをしっかり指南してくれることで、難関大学を志望する高校生、浪人生から支持されてきた。
 また、予備校は受験生のレベルと大学が求めるレベルをマッチングさせるため、偏差値を用いて大学に難易度をつけている。大学を測っている、といっていい。受験生および関係者(保護者や高校進路指導教諭)ニーズに応じてのことだ。ミスマッチさせないために。
 ここで、予備校は個別の大学に対して、ポジティブ、ネガティブな評価をくだすことはない。予備校によって偏差値が低くつけられることは、わが大学へのネガティブな評価だと受け止めるところはある。だが、予備校に言わせると、あくまでも数値である。大学を貶めようとする意図はない。

 しかし、Fランクとなれば話は違ってくる。「フリーパス」は誰でも入れることを意味してしまう。Fランクの大学には難易度がつけられず、どんなレベルの学生でも受け入れる。河合塾はそう告知したようなものだ。
 大学にとっては偏差値の数値とちがって、誰でも入れるということをFという記号で示された、つまり、露骨にネガティブな評価を下した、と受け止めてしまう。それゆえ、前述のような学長の反論が出てくる。河合塾もFランクがここまで独り歩きして、大学を貶めるような表現になるとは思っていなかっただろう。

 Fランクに関する記事が出た2000年、四年制大学進学率は39.7%だった。翌2001年に初めて40%を超える。そして2009年には50.2%ととなり、18歳人口の半分が大学へ進む時代となった。2000年代のわずか10年の間で大学進学率は10ポイントも上がってしまう。つまり、Fランクを登場させた2000年は、大学生急増により弾みが付いた年であり、全入時代の幕開けといっていい。なお、2021年は54.9%だった。
 Fランク登場から20年経った。2020年代、大学進学率は54%台に入った。大学も大学生の数もかなり増えた。2000年に河合塾が示したFランクの基準を用いれば、これに該当する大学は200を超えるだろう。
 しかし、これほど大学率が高くなった時代、偏差値で測れる「学力」ではおさまりきれない多様な学生がキャンパスに集うようになった。大学自身、多様性を訴え学力だけでない個性を尊重したい、と考えている。もちろん、大学である、最低限の学力は必要だろう。入学後、学力を付けることを前提に、大学には入学時点で、これまでのモノサシでは測ったときには達しない学生を入れていいのではないか。

 こうした大学に対して、Fランクと名付けて「品定め」することに意味があるとは思えない。「フリーパス」の大学をことさらリストアップして掲げたところで、どのような役に立つというのだろうか。
 役に立たない、ではすまされないほど有害無益である。「Fラン」とレッテルがはられた大学は、差別と偏見にさらされてしまい、そこで学ぶ学生をいたく傷つけている。

 冒頭に紹介した新卒向け就活情報サイトには、勝手にFランク扱いした上で、こんなことまで商売にしようとしている。
「Fラン就活生におすすめの就活サービス1つ目は、就活エージェント「*****」です。「Fランクでも内定取れるの?」「Fランクだから就活に不安しかない…」そんな就活生こそ、就活エージェントを使うのがおすすめです。その中でも「*****」を使うと、Fランク大生でもホワイト企業に内定できるほどのサービスを無料で受けられます」。
 余計なお世話である。

 さまざまな学部や学科を作って工夫したが、学生募集で苦労している大学教職員がいる。第1第2志望の大学に受からず、不本意ながら入学した大学には学生が少なくキャンパスには覇気がないと感じる学生がいる。
 こうした大学に対して、変なレッテルを貼るのではなく、もっとあたたかな目で見てあげることはできないのだろうか。
そのためにも大学受験用語から、Fランクということばをなくしてほしい。塾や予備校、高校、大学、メディアは、どうかFランクを使わないようにしてほしい。
「Fランク大学」という呼び方はやめよう。
 どうか愛情をもって大学を見てください。
 

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