第44回 大学・大学入試情報コラム

「0限授業」「朝課外」は思考停止を促しかねない。
廃止は時代の要請では?

2022年10月
教育ジャーナリスト 小林哲夫

授業の充実と放課後講習
学習の中心は「通常授業」(週34時間)です。それぞれの教科・科目の内容を正確に理解することが最も大切となります。学習のリズムを作り出すために授業を正確に理解し、予習・復習・課題などにつなげていきます。各科目の学習方法の提示も各担当者が行います。
さらに、国語・数学・英語については通常授業のほかに放課後講習を実施し、演習量を確保します(週3日程度予定)。
なお、これまで行っていた0限授業については、2022年度入学生より廃止となります

 関東地方のある私立学校の難関大学進学コースがこんな方針を打ち出している。大学入試に備えた準備を徹底的に行うとうたわれたものだ。いたれりつくせり感がみてとれる。
 気になるフレーズを見かけた。最後の1行、「0限授業」が「廃止」とある。
 これはどういうことか。

 0限授業とは何か。
「1時間目の授業の時間帯」(たいていは8時30分、8時40分、遅くても9時スタート)よりも早く始める授業、「1」の前の0から、こう呼ばれている。朝課外授業という言い方もある。0限授業は7時30分あるいは40分から授業をガッチリ行う。7時からというハードなロングランもある。8時すぎからのスタートは小テスト、答え合わせを短くて10分程度、長くても30分ほど行っている。位置づけとして、あくまでも補習だ。卒業までの授業時間分としてカウントされず、学習指導要領が定めた教育課程の範囲外である。したがって強制力はない、はずだ。しかし、出席を強いられる。生徒にすれば、サボることによって教員の心証を悪くしたくない。

 それでは、なぜ、冒頭の私立学校は「0限授業」をやめたのか。その理由は明らかにされていないが、次のことが考えられる。

①遠方から通学する生徒には大きな負担となり、学習効果は望めない。
②教員の負担増。働き方改革に逆行する。
③受験一辺倒に見られ、社会的にあまり評判は良くない。
④昨今、他校で「0限授業」をやめる動きが出ている。
⑤補習より探究型の授業にシフトし、総合型、学校推薦型(旧AO、推薦入試)に備える。
⑥生徒1人で自ら学び考える、という自学自習の機会が失われる。

 ①~⑥をまとめると、まず生徒、教員の負担が増すばかり疲れ切って、両者ともに良い教育が体験できない、という現状を改善とするねらいがある。そして、0限授業が受験を最優先させた知識詰め込み型で高校生活が楽しくないという批判が出ており、廃止する動きがでてきた。
 0限授業が全国でもっとも盛んなのは九州地方の公立高校である。読売新聞の調査によれば、実施されている学校数は福岡93校中60校、長崎56校中23校、宮崎37校中22校、鹿児島61校中32校となっている(2022年9月/22日)。
 宮崎県のある県立進学校は、午前7時40分から「朝課外」が始まる。同校教員がこう話す。
「大学共通テスト、この難易度が高度さを増している。これに対応していくためには、どうしても授業だけでは演習する時間が足りないので、大学の入学の第一希望を叶えるために課外の必要性を感じている」(宮崎放送ウェブサイト. 2022年6月4日)

 一方、県立高校で行われていた「朝課外」授業を廃止すると明らかにした。ある県立高校では「朝ゼミ」をやめることについてこんな説明をしている。

朝ゼミを行わない理由
(1)探究学習のさらなる拡充
今後の学校教育では、課題研究等の探究学習が学びの柱となる。大学入試においても総合型、学校推薦型(旧AO、推薦入試)選抜における募集人員が拡充され、高  校時代の探究学習の成果が大きく評価されるようになっている。本校ではSSHの取組を通じて、すでに探究学習の基盤ができており、今後は、探究学習を一層充実させ、全学科で展開していく必要がある。
(2)個別最適な学びの推進
社会の変化に伴い、今後生徒は、自分の進路志望や学習到達度に応じ、自分の学びをマネジメントしながら希望進路実現を図る「個別最適な学び」を行う必要がある。生徒は個別最適な学びを行うための時間を確保し、学校はそのサポートを行っていく。本校は1人1台端末の導入により対応できる環境が整っている。
(同校ウェブサイト 2022年1月11日)

(1)は入試に必要な科目以外で学問の専門性を高めさせる。それは総合型、学校推薦型に対応できる、という。「入試に必要」という考え方だ。(2)の「自分の学びをマネジメント」は、自分で考えて勉強しなさい、学校は少しでもお手伝いしますよ、という意味だ。生徒の主体性に任せる、いうなれば生徒を信頼している、という姿勢が見えるからだ。

 ところでなぜ、九州の学校に0限授業が多いのだろうか。当事者の高校教員は言う。①東京や大阪の都市部のように放課後に通える塾や予備校がない、②ここ数年、東京大京都大や早慶関関同立など難関大学進学実績が落ちている―――から。
 たしかに都市部の難関大学実績の低下は見られる。28年前と比べてみた。
 東京大合格者は1994年、九州全体で341人だったのが2022年には215人となっている。県別では(1994年→2022年)、福岡78→71人、佐賀26→9人、長崎42→22人、熊本23→28人、大分26→13人、宮崎22→16人、鹿児島124→56人と6県のうち4県が半減もしくはそれ以下になっている(データは大学通信調べ)。
 なるほど、九州全体で高校生の学力が下がったと受け止め、0限授業に力を入れるという政策はわからないではない。

 これは都市部への一極集中型を抑える効果が期待され、決して悪いことではないように思える。高い学力層が地元に残ったことで地域を活性化できる、と期待できるのではないだろうか。

 0限授業は高校生のアタマを受験で固めてしまうだけで良い効果は生み出さないと思う。入試対策でがんじがらんめにさせては、生徒をそれ以外のことが考えられないような思考停止に陥らせてしまうのではないか。思考がストップすれば、文部科学省がおし進める「主体的、対話的で深い学び」などできない。生徒を教室から解き放して自由にさせて、いろいろなことを考えさせる時間を作ってほしい。
 0限授業はやめた方が良いのではないだろうか。健全な精神も健全な肉体も作れなくってしまうから。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です