第25回 大学・大学入試情報コラム

岸田文雄総理が誕生。出身校を見れば東大早慶上智内閣

2021年10月
教育ジャーナリスト 小林哲夫

 2021年9月、衆議院議員の岸田文雄氏が第100代内閣総理大臣に就任した。
 岸田総理は開成から早稲田大に進んでいる。新内閣の顔ぶれ、出身校を眺めてみよう。東京大5人、早稲田大4人、慶應義塾大4人、上智大2人となっており、1人が東京工業大、学習院大、国際基督教大、明治大、山口大となっている。
 受験生から人気がある大学が並んでおり、「やっぱりそうか」と思う半面、「平板すぎておもしろみ欠けるなあ」という感想を抱いた。安倍晋三・元総理の成蹊大出身がなつかしい。
 東京大5人のうち4人は官僚経験者という、お約束ごとが見える。
*古川禎久・法務大臣=建設省
*小林鷹之・経済安全保障大臣=財務省
*山口壯・環境大臣=外務省
*後藤茂之・厚生労働大臣=財務省
 官僚でなかったのは茂木敏充・外務大臣だけだった。

 慶應義塾大をみてみよう。親族が国会議員、地方議会議員、首長というケースが見られる。前国会議員を見渡しても2世3世議員の宝庫となっている。
 そのなかでも最強なのが岸信夫・防衛大臣である。実兄の安倍晋三、祖父の岸信介が元総理である。なお、大臣ではなく、自民党三役に抜擢された福田達夫・総務会長もすごい。父は福田康夫、祖父は福田赳夫といずれも総理経験者である。幼少から、国のトップに育てられたという環境はいやが上でも、自分もトップを宿命づけられてしまい、総理をめざすしたくなるのではないか。総理経験者は慶應が大好きなようだ。

 早稲田大出身はどうか。金子恭之・総務大臣は熊本県立人吉高校卒業で、地元選出の国会議員秘書を経て国会議員となった。松野博一・官房長官は千葉県立木更津高校を出ている。大学卒業後は松下政経塾で修業を積んだ。苦労人、たたき上げ感がする。
 しかし、早稲田大にも2世3世議員の波が押し寄せている。
 岸田総理は父も祖父も国会議員という政治家一族のなかで育った。鈴木俊一・財務大臣の父は鈴木善幸・元総理である。

 上智大には野田聖子・少子化 地方創生大臣、西銘恒三郎・復興大臣がいる。
野田大臣は1980年代、外国語学部比較文化学科(当時)に通っていた。比較文化学科は昭和のころに国際部と称しており、キャンパスは市ヶ谷にあった。現在は国際教養学部と名乗っており、学生は四谷キャンパスで学んでいる。
 ここは国際部時代から、帰国学生が多く芸能人、キャスターを多く送り出したことでも知られている。范文雀、ジュディ・オング、南沙織、アグネス・チャン、早見優、西田ひかる、リサ・ステッグマイヤー、クリスタル・ケイ、青山テルマ、はな、川平慈英、デーブ・スペクターなど。キャスターには安藤優子、山口美江、小牧ユカなどが通っていた。野田大臣は高校時代に渡米してハイスクールの生徒だった。やがて帰国後、上智の華やかな環境でキャンパスライフを送っていたことが想像できる。語学が堪能で、華やかな舞台で注目されるという意味では、上智らしい。

 学習院大出身の堀内詔子・ワクチン、五輪大臣は、華麗なる一族を絵に描いたような家庭環境で育った。父はフコク生命社長をつとめ、前の天皇とは学習院時代の同級生だった。その関係もあって、堀内大臣は20代のころ、現在の天皇の結婚相手として名前があがったことがある。そればかりではない。
 堀内大臣の長男が佳子内親王の花婿候補として報じられている。曽祖叔父には、吉田茂・元総理がいる。また、堀内大臣の夫は学習院中等科出身で富士通社長をつとめている。義父の堀内光夫は通産大臣や労働大臣(いずれも当時)をつとめた派閥の領袖で大物政治家だった。
 学習院を中心に閨閥が作られているという、ドラマ、映画のような世界だ。政界と財界を大きなバックにして永田町で存在感が揺るぐことのない麻生太郎・副総理が学習院大出身というのも妙にうなずけてしまう。

 それに比べると、明治大出身の萩生田光一は政界、財界とは縁がない家庭環境で育った。八王子市議会議員、東京都議会議員を経て国会議員になる。地方議会議員経験の国会議員には早稲田大、明治大、法政大、中央大、日本大出身が少なくない。
 ここでは菅・前総理を思い出す。法政大を経て横浜市議会議員となり、国のトップに登りつめた。総理就任時、そのプロフィールから「苦労人」「たたき上げ」と称えられていた。
 このあたり、官僚出身が多い東京大、2世3世が宝庫の慶應義塾大、政界や財界や皇室にも強い学習院と比べると、なるほど、違いがよくわかる。
 国会議員が出身大学のイメージを作り上げたともいえよう。

 高校の出身はさすがに、ばらけた
 2校以上は開成である。岸田総理と小林鷹之・経済安全保障大臣だ。
 開成出身の国会議員は9人いる。このなかで官僚出身が6人もいる。
 上野宏史(経済産業省)、小林鷹之(財務省)、鈴木馨祐(財務省)、城内実(外務省)、鈴木憲和(農林水産省)、井上信治(国土交通省)だ。

 官僚は、たとえば、国会答弁や報告書を作り上げるために短時間で要領をまとめなければならない、つまり事務処理能力が高くなければならない―――といった資質、能力が求められる。この点、中学受験、大学受験で圧倒的な強みを見せる開成→東京大コースに乗っかった秀才にすれば、事務処理を求める官僚仕事は苦にならない、むしろ得意といったところだろうか。
 前出、官僚出身の古川禎久・法務大臣はラ・サール高校、後藤茂之・厚生労働大臣は東京教育大学附属駒場(筑波大附属駒場高校場)出身である。超進学校が登場するのは、当然のことだろう。

 さて、岸田内閣である。大臣は東大早慶上智でまとまってしまった。これでは東大早慶上智偏差値内閣である。残念なのは地方大学、山口大だけであり、あとは首都圏、関西圏に占められてしまったことだ。これで地方の活性化は進むのだろうか。
 出身大学の多様化によって、さまざま地域、所属、属性などに目配りができる、よりよい政治が生まれる、ということを信じたい。

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