第11回 大学・大学入試情報コラム

受験鉄道学のすすめ

2021年3月
教育ジャーナリスト 小林哲夫

 2021年、開成高校は東大合格者数ランキングで40年連続1位となった。
 開成が初めて1位となったのは1977年のことである。この年の東大受験生が開成中学に入学したのは1971年のことだ。1位となった背景にはちょっとした鉄道史がからんでくる。
 1969年12月、営団地下鉄千代田線北千住、大手町間が部分開通した。このとき西日暮里駅が誕生した。開成は同駅の真ん前にある。
 1971年4月、国鉄(当時)京浜東北線が西日暮里駅を開業した。同年5月には北千住で千代田線と国鉄常磐線が相互乗り入れするようになった。これによって、埼玉県、千葉県の優秀な生徒が、開成に通いやすくなった。71年開成中学入学組が東京大を受験する77年、開成によって当時としては史上最多となる124人の合格者を出した。76年は74人だったので、いっきにプラス50人である。東京大合格者をたった1年でこれほど増やしたケースは他に見たことがない。恐るべし、西日暮里駅。
 
 それだけではない。
 1978年、千代田線は代々木上原まで延伸し、小田急線と相互乗り入れができるようになる。これによって、開成は神奈川県からも優秀な生徒を集められるようになった。78年開成中学入学生が東京大を受験した84年、合格者134人を数えた。40年連続の2年目の年、もう2位以下を寄せ付けなかった。
 2008年には筑波学園研究都市に通じる舎人ライナーの西日暮里駅が開通したことで、茨城県とも親和性が高くなった。これで、茨城、千葉、埼玉、神奈川を「制圧」する。開成の天下は盤石になったといえようか。

 他校はどうだろうか。
 2000年、東急目黒線が地下鉄南北線、三田線に乗り入れて、不動前駅近くの攻玉社は、10年後の2010年18人となり前年比の3倍となった。15年には初めて20を超えている。
 2001年、JR東日本に湘南新宿ラインが誕生した。横浜、池袋間を乗り換えなしで移動できる。これは、横浜の聖光学院高校、池袋の豊島岡女子学園高校の東大合格者実績に大きな影響を与えた。
 聖光学院の湘南新宿ライン1期生(2007年卒)は48人が合格した。92年に53人だったので、数字上、特筆すべきものはないが、初めて神奈川1強だった栄光学園高校(44人)を抜いたことで盛り上がった。2010年は65人を数え6位となる。2019年には93人にまで増やした。2007年から2020年まで、東大合格者数の聖光学園VS栄光学園は10勝4敗だ。
 一方、豊島岡女子学園の2001年湘南新宿ライン1期生は2007年に14人が合格、2010年24人、13年27人、15年33人、16年41人と上昇気流に乗る。

 まだある。
 2008年、副都心線が開通。池袋から渋谷までの便が良くなった。渋谷から井の頭線に乗り換えれば下北沢で世田谷学園高校、駒場東大で駒場東邦高校がある。池袋から2つめの巣鴨には巣鴨高校がある。2013年の副都心線1期生の東大合格者数を08年と比べてみよう(カッコ内は08年)。世田谷学園12人(3人)は新規に参入し、駒場東邦59人(38人)、巣鴨25人(22人)は、1990年代の勢いを取り戻しつつある。

 これらは半分こじつけだ。各校の進路指導の成果であることを忘れてはならない。だが、交通網の整備、発展と受験の因果関係を調べてみるとなかなかおもしろい。
 もっと歴史をさかのぼると、まだまだある。
 1964年10月、東海道新幹線が開通した。東京、新大阪間を3時間10分で結んだのである(65年9月までは4時間10分)。それまで東京、大阪間で鉄道による最短時間は特急で6時間30分、急行で10時間以上かかった。
 東海道新幹線開通によって東京から関西までの所要時間はこれまでの半分となった。これは、関西在住の受験生が東大を受けやすくなったことを意味する。

 灘高校からの東大合格者数は、合格者は開通前の64年(3月)から67年まで、56人、66人、95人、112人と右肩上がりを示し、4年間で倍増させている。
 1975年3月、山陽新幹線は全線開通して、広島、小倉、博多から東京までの所要時間が短くなった。やはり、東大合格実績がそれを証明する。広島学院高校からの合格者は74年から76年まで21人、30人、41人と増加する。
 福岡の久留米大学附設高校からの合格者は、74年から77年まで8人、30人、21人、35人と増え続けたのである。

 どう考えても、受験と鉄道には因縁関係がある、
両者の歴史を眺めると、多くの発見があり、さまざまな感動を呼び、奥の深さが示される。これは新しい学問分野として、構築させなければならない。
 その名もズバリ、受験鉄道学である。「新線開通および相互乗り入れによる大学合格実績の推移からみた進学校の歴史的検証」というテーマは博士論文として十分に通用する(と思う)。
 幸い、開成、灘、筑波大学附属駒場、麻布、ラ・サールなどの東京大合格上位校では鉄道研究会の活動が盛んだ。
 受験鉄道学の未来は明るい。

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