第76回 大学・大学入試情報コラム

受験科目の少ない私立大入試では、新科目「情報Ⅰ」の影響を殆ど受けない。そこで、2024年度私立大入試の特徴を熟知した上で、2025年度に向けた対策を立てて、実施したい。

2024年6月
大学&教育ウォッチャー  本間 猛

私立大入試は2024年度を踏襲する
 「2025年度新課程入試元年」と言っても、入試の流れが大幅に変わるわけではない。とくに、「共通テスト」が必須でなく、入試科目が少ない「私立大入試」は、新科目「情報Ⅰ」の影響が少ないため、2024年度の結果を踏襲する展開が予想される。そこで、2024年度私立大入試の特徴をまとめてみた。
 正確な数字は、文科省「学校基本調査速報」(8月公表)のデータを見るしかないが、ここでは大きな流れでポイントを紹介したい。これらの情報が、高3生との入試対話をスムーズに進める材料になれば幸いである。

「年内入試」の合格者が大幅に増加
【2024年度私立大入試の特徴】
1.志願者・受験者数:全体の受験者数はやや減少したが、私立大一般選抜の志願者数は前年と同じように推移したと見られる。
2.年内入試の入学者:総合型選抜・学校推薦型選抜(この2つが年内入試)による入学者の割合は、毎年増加して58%に達する見込み。
3.「女子枠」が増加:理工系学部で増えた女子枠だが、これも多くは年内入試での実施。
4.新課程の影響僅か:移行措置が理解され、受験生の「後がない」意識が薄れたようだ。
5.共通テストの易化:2年続けて平均点がアップしたことで、志願者数の増加となった。
6.都市圏志向の回復:コロナ下では地元志向が強くなったが、難関大人気は堅調だった。
7.女子大離れが顕著:志願者が軒並み減少。多くの短大で、募集停止が目立っている。
8.文理融合系が堅調:情報・データサイエンス系学部が増加しているが、人気は継続中。

18年後の受験生は約43万人になる
 急速な少子化が続く中、18歳人口の減少は残念ながら止まらない。暫くは大学進学者の裾野を広げ、進学率をアップさせながら、併願校数の増減で志願者数・受験者数を変えつつ、現在のような動向を繰り返す。そして、大学の淘汰が始まることになるだろう。
 2024年度の18歳人口は約106万人。最近の大学進学率約57.7%を当てはめると、受験生は約61.2万人いることになる。大学進学率がこのままとすると、18年後の2042年度には、出生数約75万人(2023年)に対して、受験生は約43.3万人まで減ることになる。つまり、約18万人減と3割近く減るのだ。
 政府与党の教育・人材力強化調査会は5月16日、急速な少子化を踏まえた大学の統合・再編や、定員規模の適正化などを促進する提言をまとめた。

尖った、伸びしろが感じられる人材
 年内入試の対策では、早めの準備と調査書内容の充実が重要だ。とくに総合型選抜では、文科省の調査によれば、「学ぶ人材の多様性を担保」するため、尖った人材、伸びしろが感じられる人材を選抜するケースが多い。
 また、共に学ぶ学生をリードして、より一層の高みを目指すリーダーシップ力を有する人材などに着目して選抜する大学が目立つという。これらの対策として、何が有効かを熟知した上で挑戦することが大切になる。
 私立大ばかりでなく、卓越研究大学に選ばれた東北大も、「将来的に総合型選抜に完全移行したい」という趣旨の表明をしている。

理系学部の「女子枠」の拡大は続く
 2024年度東京工業大と東京理科大等の「女子枠」実施で火が付き、「レベルが下がる」「逆差別だ」の批判を吹き飛ばした感じだ。2025年度以降、理系学部が多い国立大や私立大でも「女子枠」の導入を公表している。
 女子大の志願者数減が、「女子枠」の増加とどのように関連するかは不明だが、興味のある数字の移動ではある。
 2024年度入試では、“日東駒専”の中で不祥事が続いた日本大が志願者を対前年で約2万2000人減らした。一方、東洋大が約1万6000人、専修大が約6000人増やし、日本大の志願者が後者の2大学に流れた様相を呈した。真実は分からないが、とても興味深い。

新課程で新傾向が出題されるかも
 新課程の共通テストでは「情報Ⅰ」が新たに加えられるが、初年度の各国公立大学の扱いはまちまちで、配点を100点満点にしたり、しなかったり、また圧縮したりと、新科目の影響が出ないようにしているようだ。
 また、共通テストはここ2年間、大学入試センターが目指す「平均点60点前後」をキープし、安定している。2025年度は過去のトライアルで例示された問題形式で出題されていない形式が出されるかもしれない。そうなるとひと波乱ということに──。
 共通テストの結果が良ければ、強気の出願となり、都市圏の難関大志向、景気の持ち直しを反映しての“文高理低”傾向、人気大学・学部への挑戦などが芽生えるだろう。

早慶のダブル合格者は好みで選択
 大学のブランド力、人気度などは、模試の偏差値がほぼ同じ大学・学部間では、両方に合格した受験生が、どちらの大学をチョイスして進学したかで決められるケースが多い。
 しかし、早稲田大と慶應義塾大は、何十年も前から「私大の雄」としてライバル関係にあり、また東京大の併願校となり、甲乙つけ難い。この両校にダブル合格した場合は、「好み」で大学を選択しているようだ。
 早稲田大は政界・マスコミ関係に強く、一匹狼的で、OBとの繋がりも強固ではないイメージ。群れをなさず、独立心が旺盛なように見える。一方、慶應義塾大は財界・経済界に強く、お坊ちゃま育ちの学生が多いイメージ。OBとの繋がりは最強と言われ、大企業への就職にも、OBの存在感が大きいようだ。

本間 猛
東京理科大学理学部数学科1964年3月卒(参考 昭和39年:東京オリンピック・新潟地震)。元(株)旺文社取締役。中学・高校雑誌編集長,テスト部長,関西支社長等を歴任。

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