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「SAPIX生まれ、東大育ち」――塾や予備校出身の政治家集団は日本を動かすか

 2月の衆議院選挙で昨年できたばかりの政党「チームみらい」が国会で大幅に議席数を増やした。
 選挙前、チームみらい所属の国会議員は、同党代表で参議院議員の安野貴博さんしかいなかった。今回の衆議院議員で11人が当選し、チームみらいの議員は12人となる。
 彼らの経歴を調べると、東京大出身者が5人いることがわかった。うち安野さん、峰島侑也さん、須田英太郎さんは開成高校出身だ。しかも3人は2009年卒の同級生である。

 安野さんは東京大工学部システム創成学科を卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社した。同社でAIを活用したコンサルタント業務を進める。その後、MNTSQ株式会社を共同創業し著名な法律事務所の出資を受け、三菱商事や日立製作所にAIを活用した法務サービスを提供する。こうした実績が評価され、2022年、岸田文雄内閣でデジタル庁のデジタル関係制度改革検討会 デジタル法制ワーキンググループ構成員に選ばれた。岸田総理は開成高校の先輩にあたる。
 2024年東京都知事選挙に立候補し約15万票を獲得して注目を浴びた。その後、「チームみらい」を結成し、2025年、参議院議員選挙で当選し今日にいたる。

 峰島さんは東京大法学部卒業後、ロンドン・ビジネス・スクールでMBAを取得しゴールドマン・サックスに入社した。IT上場企業のマネーフォワードの執行役員、グループ会社取締役を務める。
 須田さんは東京大学教養学部、同大学院総合文化研究科で学ぶ一方、東京大学新聞社理事をつとめる。「在学中にまちづくりのITスタートアップを立ち上げ、香川県小豆島で自動運転バスを走らせるなど、地域や都市の課題をデジタルで解決する取り組みに従事」(須田さんのウェブサイト)とある。

 東京大出身にはほかに古川あおいさん、河合道雄さんがいる。
 古川さん久留米大附設高校出身。東京大法学部、同公共政策研究科を経て厚生労働省に入省した。この間、カルフォルニア大学バークレー情報大学院でデータサイエンスを専攻し、情報マネジメント学修士号を取得している。また、米国シリコンバレーのIT企業でエンジニアとして勤務経験がある。父親は衆議院議員、佐賀県知事の古川康さんだ。
 河合さんは筑波大学附属駒場高校から東京大文学部に進み、京都大大学院教育学研究科を修了した。教育事業を手がける一般社団法人HLABを創設している。
 ボストン・コンサルティング、ゴールドマン・サックス、厚生労働省、起業など、みなさんの経歴はキラキラまぶしい。

 チームみらいの事務本部長には安野さんの妻、黒岩里奈さんがつとめている。黒岩さんは桜蔭高校から東京大に進み、安野さんと同級生となった。2人は中学受験時代を次のように振り返っている。
「―――おふたりが幼少期に受けた教育について教えてください。
 安野さん:小学生のときは家の本棚や図書室の本をよく読んでいました。小学5年生から、SAPIXに通い始めました。
 里奈さん:幼少期は勉強やピアノをやらされていた記憶があります。私も小学4年生からSAPIXに行っていたのですが、学校では同調圧力のようなものにあまり馴染めなかったので、塾は楽しかったですね。どんな発言をしても自由に受け止めてもらえる風土が当時の私には合っていました」(ウェブサイト「KIDSNA STYLE」2024年9月23日)。

 SAPIXに通わなければ開成、桜蔭にはなかなか合格できない。
 選挙期間中、チームみらいについてこんなふうに言われることがあった。「SAPIX生まれ、東大育ち、賢い奴はだいたい友達」。
 一政党に対して個別の塾名を冠して称される、というか揶揄されることはこれまでなかった。それほどSAPIXは教育の世界のみならず、一般社会に存在感を示したということだろうか。

 筆者は2月に『予備校盛衰史』(NHK出版)を上梓した。予備校について、三国志的な歴史と「予備校文化」を解説したものである。本書では予備校の将来について明るい道筋を立てることはできなかった。だが、「SAPIX生まれ、東大育ち」、そしてこれに鉄緑会を加えた新しいエリート集団が国会で幅を利かせるかもしれない。
 となれば、塾や予備校はエリート育成の場であるとともに、エリートの出合いの場となる。中学受験SAPIXで出合って開成と桜蔭に分かれ、鉄緑会で再会し、東京大でも一緒になり、やがて結婚して子どもが産まれ、その子が大きくなり、SAPIXから開成に進んで鉄緑会に通って東京大に入った―――というケースを知っている。塾と予備校がエリート再生産の重要な媒介となったと言えなくもない。

 チームみらいに話を戻そう。
 2026年2月の衆議院選挙後、日本経済新聞とテレビ東京が共同で行った世論調査によれば、年代別政党支持率は次のようなっている。
 18~39歳:自民党37%、国民民主党16%、チームみらい8%、参政党7%、中道改革3%、日本維新の会3%、保守党2%。
 現在、国会での政党勢力図は自民党が圧倒的多数を占めている。だが、大手新聞政治部野党担当記者によれば、「チームみらいの議員は30代が中心で、若い世代に支持されており、これから議席を増やすほど勢いがあります。彼らがAIを活用して政治を良くする。そんなことを期待しているのでしょう」ということだ。

 将来の日本を担う人材がチームみらいから生まれる。そこにAIを駆使できる「SAPIX生まれ、東大育ち」プラス鉄緑会という予備校がからんでくる。
 こんな見方をすると、予備校の将来に希望が持てるかもしれない。予備校関連の本を世に送った者のささやかな願いである。

教育ジャーナリスト 小林哲夫:1960年神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト、編集者。朝日新聞出版「大学ランキング」編集者(1994年~)、通信社出版局の契約社員を経て、1985年からフリーランスの記者、編集者。著書に『女子学生はどう闘ってきたのか』(サイゾー2020年)・『学校制服とは何か』(朝日新聞出版2020年)・『大学とオリンピック』(中央公論新社2020年)・『最新学校マップ』(河出書房新社2013年)・『高校紛争1969-1970 「闘争」の証言と歴史』(中公新書2012年)・『東大合格高校盛衰史』(光文社新書2009年)・『飛び入学』(日本経済新聞出版1999年)・『予備校盛衰史』(NHK出版2026年)など。

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