第97回 大学・大学入試情報コラム
政党学生部のいま――自民、立憲、国民民主、維新、共産など
2025年8月
教育ジャーナリスト 小林哲夫
今回の参議院議員選挙(2025年7月20日投開票)では、国民民主党、参政党が大幅に議席を増やした。選挙期間中から各種世論調査で優勢が伝えられており、両党は存在そのものがちょっとしたブームになっていた。
自民党、公明党、立憲民主党に政治をまかせたところで生活は改善できないと、有権者はジャッジしたのだろう。
2025年7月、NHKは投票日直前の1週間に年代別支持政党を調査している。それによれば、18~29歳が支持する政党は高い順に①国民民主党17.0%、②自民党14.2%、③参政党12.3%、④保守党2.8%、立憲民主党、日本維新の会、日本共産党、れいわ新撰組いずれも0.9%となった(NHKウェブサイト2025年7月14日)。
https://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/
国民民主党をもっとも支持した10代、20代には、当然、高校生、大学生が少なからず含まれている。
一方で、支持率と符号するように、国民民主党の選挙運動において、街頭でSNSや学生が発信する姿が見られた。
彼らは国民民主党学生部のメンバーである。
政党には、高校生、大学生がその政党に賛同し勉強会、選挙運動などを行う組織がある。これらは「学生部」と呼ばれている。また、会社員、フリーター、無職などすべての年層によって構成される「青年委員会」「青年局」に、学生が所属してここで活動する者もいる。
学生からすれば支持する政党のもとで政治を生の現場で体験し勉強したい、という思いがかなえられる。なかには政治家をめざす者もいるだろう。政党にとっては「わが党の将来を担う若い人材」を発掘し、育成したいと考える。
両者にとってはありがたいシステムである。
現在、政党には次のような学生組織がある。
◆自民党:自民党学生部
◆公明党:公明党青年委員会(支持団体は創価学会学生部)
◆国民民主党:国民民主党学生部
◆立憲民主党:立憲ユース
◆日本維新の会:日本維新の会学生部
◆日本共産党:日本共産党学生部(友好団体に日本民主青年同盟=民青)
◆参政党:参政党青年局
◆社会民主党:全国社民ユース
政党の学生組織をいくつか紹介しよう。
学生が熱心に活動しており、選挙を手伝う姿がしばし見られるのが国民民主党学生部と言われている。歴史はまだ浅い。現在、学生部メンバーは約300人いる。
2021年、17歳の男子高校生が国民民主党学生部を仲間5人とたちあげた。政治家をめざしていた彼は初代代表となる。きっかけはコロナ禍だった。高校は休校になり、政治の現状に対して不満、いらだちを抱いていたときに、国民民主党(旧)にであう。彼はこう振り返っている。
「その時に玉木雄一郎代表が、一日10万円の給付金や大学生の学費の減免、家賃支援や具体的な中小企業の支援策だったり、具体的な政策を持って与党に対峙し、対案を持って挑んでいました。一つ一つ提案した政策を実現させていく姿に、「政治が動いていく」という実感を持つことができて、玉木雄一郎という男に惹かれました」(ウェブサイト「 elabo」2023年5月26日)。
2023年、彼は関西大に進んだ。衆議院議員選挙で大阪選挙区の国民民主党公認候補の後援会会長をつとめた。まだ18歳だった。将来、政治家をめざしている。
国民民主党学生部代表は2024年下半期、次のような活動方針を示した。
①9月~10月は、組織の土台づくり(人事・引き継ぎ)や雑談会の開催。
②衆議院議員選挙期間中は、決起集会を開き、衆院選活動。
③11月~12月は、運営構想会議の実施やOB・OG組織の設立準備。
④1月~2月は、学生部大会の開催や政策実行レビュー。
2024年12月、国民民主党学生部は定期大会を開いた。会場は2つに分かれ東京で約60人、大阪約30人、オンラインで約50人が出席している。
政党学生部でもっとも歴史があるのは自民党学生部である。1956年設立だ。自民党結成の翌年に生まれた。70年近い歴史のなかで、OBOGには国会議員、県や市町村議会議員など多くの政治家がいる。
自民党学生部メンバーのこれまでのおもな在籍校実績校は次のとおり。
高崎経済大、中央学院大、明海大、お茶の水女子大、東京大、東京学芸大、東京農工大、一橋大、東京都立大、青山学院大、亜細亜大、学習院大、神奈川大、関東学院大、慶應義塾大、工学院大、国学院大、国士舘大、駒澤大、上智大、昭和大、成蹊大、専修大、大東文化大、拓殖大、中央大、筑波大、津田塾大、帝京大、東京経済大、東京工芸大、東京音楽大、東京都市大、東京農業大、東京理科大、日本大、法政大、武蔵野大、武蔵野美術大、明治薬科大、立教大、早稲田大、横浜国立大(北から南)
現在、自民党学生部委員長は明治学院大の学生がつとめる。ちなみに2010年以降の代表は次のとおり。
<1997年~2009年>日本大、東京大、日本大、慶應義塾大、中央大、中央大、慶應義塾大、神奈川大、東京大、青山学院大、早稲田大、日本大、亜細亜大、成蹊大
<2010年~2025年> 日本大、青山学院大、国士舘大、日本大、駒澤大、明治学院大、国士舘大、東京都市大、成蹊大、関東学院大、明治学院大
(いずれも自民党学生部ウェブサイト)
日本維新の会学生部は「学生と政治を近くに」を掲げており、こんな呼びかけを行っている。
「1人でも多くの若者が投票にいく社会を目指して 投票にいくことはめんどくさい。どうせ投票に行っても何も変わらない。そう思っている若者に少しでも政治の大切さ、重要性を感じてもらえるようにそのキッカケになることができるように投票啓発活動やイベントなど様々な活動を通して伝えていきます。だから、私たちと一緒に政治に興味をもつ「キッカケ」を創っていきませんか?」(同会ウェブサイト)。
立憲ユースでは設立趣旨について次のように語っている。
「私たちは、若者が政治を体感できる現場を築き、若者の考えを実際の政策プロセスへ反映させていくチャレンジを行うため、りっけんユースを設立します。全国各地の高校や高等専門学校・大学・大学院に通う方や、16~25歳の社会人が参加しています」(同党X)。
全国社民ユースはこう訴える。
「力不足で頼りない存在と感じられるかもしれませんが…それでも私たちは社会の不条理と対峙し「声にならない声」に寄り添うことのできる存在でありたいと思います」(同党X)。
参政党青年局は次のように呼びかける。
「僕たちの未来を他人まかせにせず自分たちで一緒に考えましょう」(同党X)
民青は1923年に設立した。100年以上の歴史を誇る。民青の入れる資格は15歳~30歳で、現在、約7000人が加盟している。このうち大学生は3ケタ届くかどうか。かつては各地に民青○○大学版があった。いまは地域の委員会で活動している。国民民主党学生部より、民青のほうが集会で学生数を多く集めることはできる。しかし、それは日本共産党への票につながっていない。最近、支持率が伸びない同党としては忸怩たる思いだろう。最近の活動は「沖縄米軍基地フィールドワーク」「ジェンダー問題学習会」「小中高生対象の無料塾」「スポーツ交流会」「選挙前政策学習会」など。
学生が社会と向き合うなかで、自分の考えに合う政党に関心を持ち、選挙や講演会など政党と行動をともにする。社会と経済を安定させ国を良くするために、差別と貧困をなくし世界平和を追求するために―――。
これは立派な政治活動である。友人や保護者などまわりをハラハラさせるかもしれない。特定政党への肩入れは、場合によっては将来の進路が限定されることもありうるので、それなりの覚悟は求められよう。もちろん、これらは他者に強いられるわけでなく、自分で決めたことであり、まわりからとやかく言われるものではない。また、友人を勧誘するのはいい。だが、あまりにも執拗だとまわりから引かれてしまい、孤立する恐れがある。
政治活動は自分が思っている以上に、行動に責任が伴う。「もしかしたら政党の考えと自分の思想、信条は違うかもしれない」と思ったならば、立ち止まってじっくり考えてみる。ここで友だちと話し合うことはなお良い。さまざまな意見を交わしてほしい。
大学はそういう議論の場なのであるから。
教育ジャーナリスト 小林哲夫:1960年神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト、編集者。朝日新聞出版「大学ランキング」編集者(1994年~)、通信社出版局の契約社員を経て、1985年からフリーランスの記者、編集者。著書に『女子学生はどう闘ってきたのか』(サイゾー2020年)・『学校制服とは何か』(朝日新聞出版2020年)・『大学とオリンピック』(中央公論新社2020年)・『最新学校マップ』(河出書房新社2013年)・『高校紛争1969-1970 「闘争」の証言と歴史』(中公新書2012年)・『東大合格高校盛衰史』(光文社新書2009年)・『飛び入学』(日本経済新聞出版1999年)など。