第81回 大学・大学入試情報コラム
『年内入試』に異変が起こりそうだ。志願者を大幅に増やしている東洋大学が2025年度から「学校推薦型選抜」で併願可の「学力テスト型」を導入する。今後の動向は?
2024年9月
大学&教育ウォッチャー 本間 猛
私立大入学者の58.7%が年内入試
今年も『年内入試』が目前になった。出願者の増加が予想され、特に首都圏の私立大学では、新しい流れに注目が集まっている。「総合型選抜」(9月1日出願)、「学校推薦型選抜」(11月1日出願)のことである。
『年内入試』の現状をチェックすると、2023年度大学入学者のうち「総合型」利用が国立大5.9%、公立大4.1%、私立大17.3%、「学校推薦型」利用が国立大12.3%、公立大26.0%、私立大41.4%を占めている。
私立大学の[総合型+学校推薦型]は58.7%で、コロナ禍を契機に「一般選抜」による入学者数を超えた。私立大学の場合は、指定校推薦、付属校・系列校・高大連携校など、別ルートからの推薦入学者も増えている。
コロナ禍の不安から流れが変わった
ここで『年内入試』がなぜ増えたか、を考えてみたい。①最大の要因は、コロナ禍だ。高校や大学の授業が中止され、通学も出来なくなった。入試が中止されたらどうなる? 受験生としては、翌年2月・3月に実施される「一般選抜」まで待てなくなった。早く合格を手に入れたい、という受験生が増加した。
②大学側は少子化の中で、優秀な学生を出来るだけ早期に確保したい、という思いがあった。①+②の思いが重なり、『年内入試』受験者の増加に繋がったのだろう。
文科省は大学で学ぶ学力を求めた
2024年度までの『年内入試』は、専願のケースが多かった。また、文科省は学力の確保を指摘し、国公立大学には「共通テスト」の活用を推奨している。そして、私立大学の「総合型」は学力チェックが甘い、という声が外部から多く上がっていた。
また、「学校推薦型」も評定平均値によって、出願基準を設けているものの、学校間格差や評定が全科目による算出のため、大学の要望と乖離があるという声もあった。
難関大「総合型選抜」の評価は高い
「総合型」(旧AO)は1990年に慶應義塾大学(総合政策学部・環境情報学部)湘南藤沢キャンパスが初めて導入し34年経つが、入学者の学力不足は問題になっていない。また、東北大学なども「総合型」を評価している。
私立大学では、学校長の推薦も不要で、学びたいことが明確な場合ほど有利とされる「総合型」の受験者が比較的多く、最近は志望理由書、面接等の事前対策が十分に行われて、優劣を付けるのが難しいという。
一方、中堅・下位校といわれる大学では、学力チェックもアドミッション・ポリシーとの整合性も曖昧になっているとの指摘もある。
東洋大が学校推薦で学力テスト型
関西では以前から併願可能な「総合型」や「学校推薦型」が実施されていたが、首都圏では大規模大学で導入されて来なかった。ところが、2025年度東洋大学が「学校推薦入試基礎学力テスト型」を新たに実施する。
募集人員:全学部・学科で578人、出願ポイント:学校長推薦書・調査書・併願可、試験科目:2教科2科目(マークシート方式)、英語・国語または英語・数学、英語は英語外部試験のスコア利用可、試験日:12月1日、出願期間:11月1日~8日、合格発表:12月10日、入学手続:1次手続12月17日、2次手続25年2月28日、検定料:3.5万円。
併願可を利用し他大学に挑戦できる
東洋大学が本命の受験者は、12月の「学校推薦型」と2月の「一般選抜」とで2回以上のチャンスがある。さらに、この方式のメリットは、併願可が利用できることだ。
例えば、この学校推薦入試で東洋大学の合格を確保し、2025年2月の「一般選抜」では、1ランク上のMARCH(明治・青山・立教・中央・法政)クラスの大学にチャレンジする受験作戦を取ることが可能になる。
合格すれば1次手続きで、入学金の25万円は前納することになり、他大学に進学する場合は、25万円は戻らない。
大東文化大等も学力テスト型を導入
また、2025年度大東文化大学も、「学校推薦型」(公募制基礎学力テスト型)を導入する。併願可で、国語と英語の2教科各60分ずつのマーク式のテストのみ実施。英語は民間試験利用も可。
出願期間:11月1日~11日、試験日:11月24日、合格発表:12月2日、入学手続き:1次締切12月16日、2次締切25年2月28日、検定料:3.5万円。大東文化大学の場合は、募集人員は東洋大学のように多くはない。
さらに、「総合型」でも2025年度から基礎学力評価型を導入する大学がある。共立女子大学は、国語と英語のテストと調査書、事前課題で合否が判定される。また、関東学院大学は国語、英語、数学で、学科やコースによって教科指定をする。共にマーク式のテストで、併願可。詳細は、各大学のHPの入試案内をご覧いただきたい。
将来は年内入試が主流になるかも?
首都圏の『年内入試』で、併願可の基礎学力テスト型が拡大すれば、時期と出題範囲が異なる入試が「一般選抜」と合わせて2回行われることになる。現在の受験生の動向からすると、少しずつ『年内入試』にシフトする可能性が高いのではないだろうか。
2024年の18歳人口は約106万人、1歳児は約87万人で18年後には約20万人も減少する。このペースで少子化が進行すれば、大学の淘汰も含めて、入試が大きく変わることが予想される。
大学&教育ウォッチャー 本間 猛:
東京理科大学理学部数学科1964年3月卒(参考 昭和39年:東京オリンピック・新潟地震)。元(株)旺文社取締役。中学・高校雑誌編集長,テスト部長,関西支社長等を歴任。