第23回 大学・大学入試情報コラム
大学名から、その由来や成り立ち、大学がかかえる事情を読み解こう
2021年9月
教育ジャーナリスト 小林哲夫
来年2022年、4つの大学が開学を予定している。
川崎市立看護大(神奈川)、大阪公立大、大阪信愛学院大(以上、大阪)、令和健康科学大(福岡)となっている。大阪公立大は大阪府立大と大阪市立大の統合によるもので、お役所的に言えば、新設大学扱いとなる。
大阪都構想が議論されていたころ、「大阪都立大、将来的には首都大学大阪」などと、大阪維新の会を中心におおいに盛り上がったが、もっとも無難な線で「大阪公立」に落ち着いた。
令和健康科学大は、「令和」という新元号いちばん乗りとなる。
この大学を運営する学校法人巨樹の会(カマチグループ)創設者の蒲池真澄氏は、「日本はもっと健康になれる 令和を健康な時代にする大学、はじめます」と意気盛んだ(大学ウェブサイト)。
元号を冠した大学の先輩、慶應義塾大、明治大、大正大、昭和大、平成国際大(以上、東京)―――これらを令和健康科学大は凌駕できるだろうか。。
大学の名称はどうやって付けられるのか。
圧倒的に地名、地域名が多い。まず所在地を知ってもらうことが最優先と考えるからだろう。そして、地名、地域名に専門性をくっつける。工業、商業、医科、医療、福祉、芸術、体育などだ。平成に入って増えたのが、教育内容や政策である。情報、国際、環境などだ。東京国際大、大阪国際大、神戸国際大など、○○国際大は31ある。
最近3年間をみると、2019年、岐阜保健大(岐阜)、2020年、湘南鎌倉医療大(神奈川)、2021年、松本看護大(長野)が生まれた。
また、2020年代を迎えて、カタカナが入った長い名称の大学が登場している。国際ファッション専門職大、情報経営イノベーション専門職大、かなざわ食マネジメント専門職大などだ。これらは大学名から教育内容が高校生にもなんとなく伝わってくる。
大学の名称でもっともわかりやすいのが、創設者の名前がそのまま付けられるケースだ。津田塾大の津田梅子氏、大妻女子大の大妻コタカ氏、嘉悦大(ここまでは東京の大学)の嘉悦孝氏、椙山女学園大(愛知)の椙山正弌・椙山夫妻などが作っている。大学の前身となる塾や学校などの教育機関を開いたのはいずれも100年以上前だ。海のむこうでは、アメリカのハーバード大、スタンフォード大といった超有名校も創設者の名前が付けられている。
2012年開学の亀田医療大はその起源をたどると、江戸時代に亀田自證が開いた学問所にたどりつく。
藤田医科大(愛知)の創立者は藤田啓介氏だが、同大学開学は名古屋保健衛生大と名のっていた。藤田氏が死去から23年後、創立者の名を冠した現校名に変更している。
2021年東北女子大は共学となり柴田学園大に改称した。同大学の起源は柴田やす氏が作った弘前和洋裁縫女学校である。
ここでも先祖がえりが起こっている。
創設者が現役という大学がある。
了德寺大学(千葉)である。仏教系のように思えるが全く違う。現在、理事長、学長をつとめる了德寺健二氏が作った。了德寺氏は高校卒業後、柔道指導者、接骨院経営、専門学校運営などを経て、大学を開学した。いくつもの競走馬を所有する馬主としても知られている。 以前、了德寺氏にお会いしたとき、大学に自分の名前をつけた理由をたずねたところ、こう答えてくれた。
「了德寺専門学校を経営していた、大学を作るとき、教え子や教員から了徳寺大学にしましょう、といわれたので、この大学名になりました」。
了德寺氏は大学のビジョンについて、こう話している。
「人類の老化と病気はすべからくストレスによる血流低下によって起こることは周知の通りです。私達の大学ではこの治療法を地域の人々や本学学生、教職員に無料で提供し稀々の疾病改善や予防に大きく貢献しています」(大学ウェブサイト)。
オリンピック東京2020大会の柔道で金メダルを獲得したウルフ・アロン選手は了德寺大学の職員だ。
大学の名前はわかりやすい、すぐにインプットされる。そしてだれもがすぐに読めるものがいい。
しかし、難読大学がある。
2021年開学の叡啓大(広島)である。えいけい、と読む。字面から仏教系と思いきや、公立大学だった。さすがに地元でなければわからない。
校名の由来など、地元紙がこう伝えている。
「新大学の名称を発表した今年10月の記者会見。中村健一理事長は、その名に込めた思いを解説した。「『叡』の訓読みは『かしこい』。『谷』と『目』が組み合わされた字で、物事を掘り下げて追求し見据えるとの意味がある。そうした力をもって『啓』、つまり新時代を切り開く人材を育てる」。名称は同法人の教職員約10人で構成する準備室が決めたという。4月に検討を開始。新大学のカリキュラムを協議した有識者会議のメンバーにも候補を募った。50余りの案の中に「叡」の字があった。案には含まれていなかったが、新大学の理念に沿った「啓」の字を組み合わせた」(中国新聞デジタル2019年12月20日)
多くの公立大学には「県立」「市立」という名前が入っている。国公立大学と位置づけられることで、ブランド力を保ちたいからであり、「私立よりも上」という優越意識やプライドさえも見えてくる。2001年開学の尾道大は学生から「就職活動で地方の私立大と低く見られる」という要望を受けるなどで、2012年に尾道市立大に改称してしまう。
叡啓大はそういう意味で冒険であろう、「県立」とつけなくても秋田の国際教養大は全員留学制度で全国区となった。叡啓大も公立というブランド力はあるものの、強烈な個性を打ち出せるかに、大学の浮沈がかかっている。
難読大をもう2つ紹介しよう。尚絅学院大(宮城)、尚絅大(熊本)である。しょうけい、と読む。この2大学につながりはない。
大学の改称は少なくない。
2015年以降、主だったものをみると―――
*日本橋学館大 小中学校高校を持つ開智学園が買収して開智国際大に
*足利工業大 5年前に看護学部設置、初の卒業生送り出しを機に足利工業大となった。
*プール学院大 設置者が変わり教育系単科大として再出発し桃山学院教育大となった。
*京都学園大 日本電産創業者の永守重信氏に買収され、京都先端科学大に。
*岐阜経済大 看護学部設置で岐阜協立大となった。
*広島文教女子大 共学化で広島文教大に
*京都造形芸術大 京都芸術大に改称されたが、京都市立芸術大から類似名ゆえ抗議。
*苫小牧駒澤大 買収され北洋大となり、仏教の曹洞宗系とは縁がなくなる。
*いわき明星大 医療創生大となるが、所在地がわからなくなった。
2022年稚内北星学園大(北海道)は経営者交代によって、育英館大と改称する。
北星学園はキリスト教プロテスタントで日本基督教団・アメリカ長老教会系に属している。東京の女子学院中学高校、大阪女学院とまったく同じグループだ。しかし、稚内北星学園大は学校法人が代わってしまい、ミッションスクールでなくなってしまう。つまり、大学のカラーまでも大きく変わる。OBOGにとっては残念であろう。
入学したときにもらった学生証に記された大学と、卒業証書に刻まれた大学が異なる。大学の事情ゆえ仕方ないことだ。学生はなんら恥じることはない。大学の発展するなかでの出来事とポジティブに受け止めればいい。
ただ、2010年以降、大学の売買収が多く見受けられる。少子化で学生が集まらないという現状で、大学経営者が救済を求めるのはやむを得ない。気になるのは、看護、医療など流行の学部に安易に飛びついてしまう傾向が見られることだ。
悲しいかな、大学をリニューアルして校名を変え、看護学部を作ったものの、定員割れを起こしたところがある。
大学を選ぶとき、大学の名称はどうなっているのか。どんな由来があり、どう変遷したのか。大学の事情がすこしわかる。注目してほしい。