第13回 大学・大学入試情報コラム
東大・女子学生タレント7人の合格体験記
2021年4月
教育ジャーナリスト 小林哲夫
大学受験シーズンが終わると、大学合格体験記を予備校パンフレット、受験情報誌などでちらほら見ることができる。まるまる1冊の単行本としてまとめられることもある。最近、タレント本スタイルの合格体験記を見かけるようになった。
今年、東京大法学部を卒業した鈴木光さんは『夢を叶えるための勉強法』(KADOKAWA 2020年)を上梓した。鈴木さんはクイズ番組「東大王」(TBS)に出演していた。どんな難問にも動じることなく、たんたんと答えてしまうクレバーさを見せつけた。彼女は法曹界を目指しておりタレントではない。だが、ゴールデンタイムのバラエティ番組に月に1度は出演していたので、タレント並みといっていい。
鈴木さんは筑波大附属高校出身。同書でこう指南する。
「覚えたい事柄に理屈があると疑ったら、まずは調べる。理屈と紐付くと納得感が味わえるので楽しく暗記できる。理屈と知識を関連付けると覚えやすく、忘れにくい」。
桜雪さんはタレントしかもアイドルとして一部に熱狂的なファンがいた。桜さんは東京学芸大学附属高校から河合塾で1年浪人し、東京大文科三類に合格する。桜さんは自著『地下アイドルが1年で東大生になれた! 合格する技術』(辰己出版 2016年)でこう説いている。
「目標を設定したら、そっから逆算して。この日は世界史の何年から何年を勉強するなど、献立を決めるような感覚で、学ぶべき内容をスケジュール帳に書き込んでいきます。書かれた内容を勉強したら、その日はノルマ達成。ノルマを達成した後は、好きな勉強をしていいというルールを決めていました」。
東京大でミスコンが行われるようになったのは2000年代あたりからと言われている。桜雪さんは、現役アイドルゆえ、「ミス東大」にはエントリーできず、その悔しさまで合格体験記に吐露していた。
2005年、「ミス東大」に東京大文科二類1年生、加藤ゆりさんが選ばれた。彼女は名古屋大医学部志望だったが、センター試験で思うような点数がとれず不合格となり、後期で東京大理科二類を受けて合格した。大学3年次には経済学部に進んでいる。『ミス東大 加藤ゆりの夢をかなえる勉強法』(中経出版 2009年)のなかで、こうアドバイスする。
「苦手なものほどとりあえずやっている。基本的なことはあなどらない。自分の中の集中力のスイッチを見つける。計画は最優先順位を決めて常に再調整する。オリジナルのロゴで記憶に定着させる」。
2004年の「ミス東大」には東京大理科二類2年の八田亜矢子さんが選ばれている。八田さんは「熱血!平成教育学院」「脳内エステ IQサプリ」「クイズプレゼンバラエティー Qさま!!(以上、フジテレビ)など教養系番組に出ることが多かった。彼女は『今日からできる! 東大脳の育て方』(ワニブックス 2010年)で、他の家族より違った教育環境についてこうふり返っている。
「テレビは大河ドラマとNHK教育以外は禁止。マンガは歴史ものだけ。部屋にはアイドルのポスターもない。机は大人が使うような重厚なもの。旅行先はどこの国に行っても歴史の観光名所。使っていた下敷きは「長篠合戦図」。あこがれの人は諸葛亮孔明。(略)こういた日々の習慣作りが、私を東大に合格に導いたのは紛れもない事実です」。
2003年、女子学院高校から東京大理科二類に進んだ木村美紀さんは、ビートたけしが司会をつとめた教養系番組『たけしのコマネチ大学数学科』(フジテレビ)にレギュラー出演していた。東京大生の妹との共著『東大姉妹の合格勉強術』では、英語の勉強法をこう伝える。
「英語の復習に役立つ、自分専用辞書と言えるノートを作ろう。カラフルなペンでその時点での学習状態を可視化する」。
高田万由子さんは1990年に白百合学園高校から東京大に入学した。『サクラサク わたしの東大物語』(ビジネス社 2000年)で合格体験記を紹介している。
「古文は原文と現代語訳を対にして、家の廊下にベタベタ貼り、洗面所の壁も貼り紙だらけになってしまいました。歯みがきをしながらでもなんとなくではなく。しっかりと意識して覚えていく。いつの間にか、家族中が「枕草子」とか「竹取物語」、「徒然草」や「平家物語の古文単語を覚えてしまいました」。
最後に紹介するのは、桜蔭高校出身の菊川怜さんだ。1996年、東京大理科一類、慶應義塾大医学部、早稲田大理工学部に合格した。東京大工学部建築学科卒業。菊川さんはこう語る。
「朝型の受験生活でしたが、眠いと感じたことはありませんでした。自分の目標しか見えていなかったので。やるそ!という気持ちさえあれば、眠くならないものですよ」(『試験に挑むあなたに贈る 受験必勝 エールブック』2002年)。
精神論の世界である。意志が強くないと、だれもが実行できることではない。
7人の東京大女子学生タレントの合格体験記を眺めると、みなオーソドックスである。地道に時間をかけてじっくり勉強に取り組んでいる。よくある勉強法ながらも、自分のキャラクターに合わせ微妙にアレンジしている。したがって、彼女らの方法論をまるまるマネしたところで消化不良を起こしてしまい、東京大合格への道はしんどいものになるだろう。数ある勉強法を参考にしながらオリジナルを探す。それが合格への道筋である。好きなタレントの勉強法もその1つであっていい。