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かなり驚いたこと、再び—豊橋市の公立小学校での英語イマージョン教育

大津由紀雄
慶應義塾大学名誉教授・関西大学客員教授

昨年(2020年)12月24日付で「かなり驚いたこと—豊橋市の公立小学校での英語イマージョン教育」と題した記事を掲載しました(記事はこちら)。本文を読むと、その記事を書いたのは同年12月8日であることがわかります。おおよそ一年前のことになります。

その後、この試みはどうなったのだろうかと気になっていたのですが、最近になって、豊橋市にお住まいのかた3名からメールを頂戴し、やはり、かなり深刻な問題を引き起こしているようだという印象を抱き始めていました。そのタイミングで、Yahooニュースがこの試みを取り上げたCBCテレビのニュースを掲載しています。ニュースの動画も一緒にアップされています。12月7日19:08配信とあります。

記事の見出しは「様々な教科を”英語”で授業する「イマージョン教育」 導入から1年半以上の小学校では今 愛知・豊橋市」です。そのニュースでは、冒頭でイマージョン教育について、「様々な教科の授業を”英語”で行うことで、英語を早く身につける学習方法のことです」という説明が入ります。後段はかなり危険な綱渡りです。そのあと、算数と理科の授業の一コマが紹介されます。続いて、6年生の児童2人が感想を述べます。「日本語で会話をしているときとかに、たまに英語の単語が出てくる。(英語が)できているかなと思う」「普通の学校だと英語ができるのは英語の授業だけ。僕は英語が好きなので(この学校に)来てよかった」。「徹底的に英語を学べる環境を提供するイマージョン教育」と続きます。

後半に入って、「1年半が経った今、先生たちは”ある課題”を抱えています」というナレーションが入ります。ニュース番組ですから、英語イマージョン教育の試みを手放しで褒めたたえるだけでなく、課題もきちんと伝えることを忘れていないのだと期待を持ったのですが、教頭のつぎの発言が流れて、危うく椅子から転げ落ちそうになりました。「授業の準備とかミーティングとかは、普通の学校の業務よりも多いと思う」! 続いて、6年生担当の先生も準備に時間がかかると話します。たしかに、教師の負担増は重要な問題ですが、英語イマージョン教育の本質的問題はほかのところにあるのではないでしょうか。

そして、「こうした課題」を解決するために「幼児期からの英語教育」を研究する機関が、定期的に授業を視察したり意見交換に訪れたりしています」という説明があり、その「意見交換会」の模様らしきものが映し出されます。「研究員で早稲田大学・教育学部の原田哲男・教授ら」が参加したこの日の会議で、原田さんが先生たちからの質問に答えている様子が紹介されます。そして、最後に、その原田さんが「これからイマージョン教育が、もっと一般化していく。多くの人が二言語で教育を受けるというのは、すごく素晴らしいこと。(八町小学校が)モデル校になるのは今後、大きな期待が持てると思います」と語ります。そして、「日本の”公立小学校初”のイマージョン教育のモデル校として、専門家も期待を寄せています」というナレーションで、このニュースは終わります。

私が書いた昨年の記事の中で「八町小が選ばれたのは市の中心部にあるにもかかわらず、小規模校で児童数減という事情を抱えているためだ。 小規模校が生き残るために教育に特色を出し、希望すれば市内全域から通学できる英語の特認校として位置付けた」という「東日新聞」の記事のことに触れました。それについては、「新聞に掲載された内容の一部に、実際と異なる点がございましたので、訂正します」で始まる訂正の文言が八町小学校のサイトに掲載されていることも明記しておきましたが、その訂正にもかかわらず、英語イマージョン教育の導入は「小規模校が生き残るために教育に特色を出」すためのものであるとの疑念を拭い去ることはできませんでした。実際、豊橋市在住の方たちからいただいたメールにはどれにもわたくしが抱いた疑念のとおりであるとの指摘がありました。また、Facebookの書き込みにも同様の見解が見られます。

一年前の記事では、豊橋市の英語イマージョン教育の問題点して、児童の母語の確実な発達の保証、教員の確保、英語イマージョン教育を受けた小学校卒業生を受け入れる中学校・高等学校の確保、それらを保証するための財政的裏づけなどについて書きました。これらのうち、財政的裏づけについては、八町小学校に対しては特別な支援体制があり、教育予算が他の学校とは大いに異なっているという情報を寄せてくれた方もいます。ただ、そうであっても今回紹介したニュースにもあるように教員の負担増は並大抵のものではないという問題があることには注意すべきです。

わたくしが最も懸念しているのは児童の母語の確実な発達の保証です。母語は思考を支え、思考を整理するための重要な基盤です。豊橋市の英語イマージョン教育を推進している人たちにこの点の明確な認識があるかどうかが鍵になります。それは単に国語の教育は日本語でしっかりと授業を行っているということで解決する問題ではありません。また、成田潤也さんが先日(12月7日)Facebookにアップされた記事にあるように(https://bit.ly/3w6vdG0)、豊橋市には外国籍の住民も多くいるようです。英語イマージョン教育の参加児童の中に外国籍の子どもたちがいるのか定かではありませんが、もしいるようであれば、彼ら彼女らの母語の確実な発達も保証する必要があることは言うまでもありません。

教員の確保、英語イマージョン教育を受けた小学校卒業生を受け入れる中学校・高等学校の確保もいずれも見過ごすことができない重要な問題です。豊橋市在住の方々からのメールではこれらについて明確な見通しは立っていないということですが、実情はどうなのでしょうか。

豊橋市の公立小学校での英語イマージョン教育はもっと注目すべき問題です。そこに学ぶ子どもたちの将来がかかっているのですから。

豊橋市の英語イマージョン教育に関係する方々からのご意見をお待ちしています。

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