慶應義塾大学名誉教授・関西大学客員教授
和歌山大学教授 江利川春雄さんの最終講義を聴いて
3月28日(日曜日)の午後、和歌山大学教授の江利川春雄さんの最終講義が行われました。演題は「英語教育における協同学習の意義・方法・課題」でした。
江利川さんは、協同学習を「少人数集団で自分と仲間の学びを最大限に高め合い、全員の学力と人間関係力を育て合う教育の原理と方法」と位置づけ、自らのこれまでの人生を軸にして、協同学習を通じての人間教育の重要性について語りました。わたくしにとって印象深かったのは、江利川さんが神戸大学大学院教育学研究科で指導を受けた青木庸效(あおき・のぶかず)さんの「不定詞や関係代名詞は忘れても,生徒の中に残るもの。それが教育です。英語という科目を通じて,人間教育をしなければなりません」ということばです。
江利川さんは、2021年は転換の年として、「コロナ禍+新学習指導要領+GIGA スクール」という状況下、教師の自己変革と働き方改革が求められる中で、協同学習の重要性が一層増しているという認識を示しました。中学生の学ぶべき英単語の数が2倍になり、現在完了進行形や仮定法などの文法項目が導入され、さらには、「授業は英語で行うことを基本とする」という方針が現実化していく中、著しさを増す学力格差を是正するためには協同学習が効果的であることを論じました。自らの体験を基盤に展開される、証拠を踏まえた議論は説得力があります。
江利川さんは最終講義を、教育の重要な使命は「歴史を創る主体」の育成にあり、そのためには自由な個人による自治的な協同社会の実現が必要であると締めくくりました。
江利川さんが「残された課題の1つ」として挙げたのが「生徒の主体性をどう評価するか」という問題です。生徒が主体性を持ち、それを基盤に学習を進めることが望ましいことは言うまでもありませんが、それに「評価」を絡ませることは深刻な危惧を感じます。主体性に欠ける状態から主体性がある状態への変化はまさに「内的変化」です。わたくしたちが観察できるのは外部化された部分だけで、主体性の変化がどのように外部化されるのかは(タイプはあるでしょうが)一人一人違います。決してやってはいけないことは一定の(外的)基準で生徒の主体性の度合いを数値で測ろうとすることです。わたくしは教育評価の専門家ではないので、間違っていたらご教示いただきたいのですが、そもそも生徒の主体性を評価しようと考えること自体が誤っているのではないでしょうか。もちろん、主体性のよい方向への変化を教師が見て取った時に、それを励ますことは大切なことと思いますが、それは評価とは異なるものと思います。
こんなことを考える貴重な機会となりました。
江利川さん、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
なお、江利川さんの最終講義の様子についてはhttps://bit.ly/3w6vdG0を参照してください。また、江利川さんの退職記念論集が『英語教育の歴史に学び・現在を問い・未来を拓く』という書名で渓水社からオンデマンド出版されています。アマゾンから購入することができます。この中には「協同と平等の英語教育を求めて—私的英語教育史」という、江利川さん自身による貴重な論考も納められています。